─5日目 タイトルは。─
「むぅ〜…」
さっきからずーっと唸り声が我が家に響いてます。
ども、目の前で唸られてるカオルです。唸ってるのは勿論妹のサクラ。
「サクラ。何で唸ってるんだ?」
唸られ続けても煩いだけだし理由を聞いてみる。
「宿題が終わった」
「終わったなら良いんじゃないのか?」
普通はそう思うんだけど、生憎ウチのは普通じゃ無いんですよねハイ。
「納得がいかないというか…」
「因みにどんな宿題?」
「『わたしだけのものがたり』ってタイトルで作文書くの。原稿用紙二枚までで」
タイトルがまた微妙だな。全部ひらがなってのが適当感あるし。
「で、それが書き終わったと」
「でも傑作とは言えない作文に…一回読むから聞いてみて」
確かに作文とかは他者のアドバイスが参考になる事はよくある。
「よっしゃ、読んでみ」
「わかった。それじゃあ」
そう言うとその場でサクラが原稿用紙を軽く持ち上げて読み始めた。
「『むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました。』」
私だけの物語なのに登場人物が所在地不明のじーさんばーさんって…まぁまだ良い、突っ込みはしないさ。冒頭が想像以上にまともだったってのもあるが。
「『おじいさんは新たな技を会得するため山へこもりに、おばあさんは海賊王になろうと川へ船出にいきました。』」
前言撤回、まともじゃねー。
「あのさ、色々間違ってるよな?」
「あ、ホントだ。『いきました』を『逝きました』にしておかないと」
違うから。お前は二人の老人を昇天させる気か?
「と、とにかく間違いは後で直すとしてそのまま読め」
「わかったー」
こほん、と咳払いをしてサクラは朗読を再開する。
「『おばあさんが川で船を作っていると』」
船は最初陸地で作るんじゃ無かったか?川だと浸水すると思うんだけど。
それにしても、この話はかの有名な桃太郎をモチーフにしてるみたいだな。…とすると次は桃が川の上流から流れてくる筈…。
「『川から大きな桃が』」
来たー!
「『流れてきたので、おばあさんはボレーキックを桃にかまして軌道をそらしました。』」
来なかったー!
「しかも何故にボレーキック!?どんだけハッスルしてんだよこのばーさん!」
「水面走れるくらい?」
どんだけー。
「じゃ続き」
「…はい」
まだあるんかい。もうお腹一杯だぞ色んな意味で。
「『しかしその桃の行方が気になったおばあさんは、船を急ピッチで仕上げて大航海にいきました。』」
あはは、それじゃ大航海じゃなくて大後悔だ。
「『そしてそれから十年の月日がたち、おばあさんはついに桃のありかにたどり着いたのです。』」
長い航海だったな。ばーさん今いくつだ?
「『実は桃は鬼ヶ島に流れ着いていました。』」
おぉ、ここにきて桃太郎の最終決戦の地、鬼ヶ島登場か!上手く繋げたな妹!
ところで桃太郎って鬼ヶ島まで自分で漕いでいったんだよなー、凄い腕力だ桃太郎。そりゃ犬も猿も雉もついていくわ。
「『それを知ったおばあさんは単身で鬼ヶ島に殴り込みました。』」
今は桃太郎よりもばーさんの方がスゴイけどね。
「『おばあさんは迎え撃つ鬼達を得意のボレーキックで、ばったばったとなぎ倒していきます。』」
あーやっぱり得意技だったのかボレーキック。
…ん?そういやじーさん山篭って出番終わり?かわいそー。
「『そしておばあさんはその鬼達のボスである─おじいさんの元へと来ました。』」
じーさんも来ましたー!
「てかじーさん何で鬼従えてんだよ!?山篭りは?」
「一昨日に無事終わったよ」
へぇーそれはそれは。
「『おばあさんは言いました。「おいジジイ、あの桃はあたしが先に目ぇつけたんだよ。それを横取りとはぁ一体どういった了見だぃ!?」』」
ばーさんばーさん、口悪すぎだ。怒ってるのは分かるけど。
「『しかしおじいさんも言い返します。「うるせぇババア!ロクに家事もしねーで海賊王なるとかほざいて海に出てったてめぇにンな事言われる筋合いは無いわぁっ!!」』」
だから口悪すぎだって!じーさんの言ってる事も正論だけどさ。
「『「…ならもう話す事はないねぇ」「ああそうさ、俺達はただ…」
「「拳で語り合うのみ!!」」』」
うおっ、何か今ピカッてなったぞ!雷か?
「『そして二人は互いに持てるすべての力を出してたたかいました。』」
…最早唖然。
「『ドゴッ!バキッ!ワンワン!ズドッ!ウキーッ!ズバババッ!ボカァン!キジー!たたかいは白熱していきます。』」
待て、何か鳴き声混じってるし。しかも桃太郎おなじみの動物三匹…雉だけ鳴き声知らなかったんだな。だからって『キジー!』はどうなのよ。
「『「「うおぉぉおぉおっ!!」」やがて二人は相手のクロスカウンターを同時に受け、ダウン。』」
「あ、引き分けだ」
「『倒れたおばあさんは言います。「…やるねぇじいさん。」おじいさんも言います。「ばあさんも…な。」』」
「…………。」
「『こーして二人は仲良く桃プリンを食べましたとさ。』」
そこに繋がるのかよ!
「めでたしめでたしー」
「少なくともめでたくは無い!」
老人二人が意味解らん行動しまくった挙げ句最後は今サクラがハマってる桃プリンかい。
「どうだったこの話?」
サクラが小首を傾げて聞いてくる。
「どうもこうも…あ。」
感想もだけど一番大事かもしれないのを聞き忘れてた。
「題名は?」
「へ?最初に言ったじゃん」
「それはお題だろ?俺が言ってるのはこれ自体のタイトルな」
「あー、なるほど」
「考えてなかったんかい」
「うーんー」
悩みに悩んで出た結論は…。
「…ももちゃろう?」
なんでやねん。
来週からテストなんで1週間投稿ペースが落ちます!ご免なさい…(汗