─45日目 嵐もいつかは去って行く─
「ただいまー」
学校から帰ったカオルです。
「カオル兄!」
そんな俺に血相を変えて走ってきたのは妹のサクラでした。
「これ」
差し出されたのは一枚の紙。
「ん?」
受け取りよく見てみる。
『カオル、サクラへ』
「これは…」
そこにはチヅルさんの字で書かれた文があった。
「チヅルさんは?」
「帰ったらもう居なかった」
「成る程」
いわゆる置き手紙というやつだ。
「サクラはもう読んだのか?」
「まだ全然。だから読んで」
「…お前読むの面倒だっただけだろ」
「てへっ♪」
何がてへっ♪だコノヤロウ。
「まぁいい、読んでやるからちゃんと聞けよ」
「ほいほい」
『休みが今日までだから帰ります。捜さないで下さい』
「「いやさがさねーよ」」
『泣かないで下さい』
「「泣かねーよ」」
『…少しは泣いてくれてもいいじゃない』
「「どっちだよ」」
何だこの手紙。
『面向かってサヨナラするのもこっぱずかしいのでレターにしてみました。燃やさないで下さい』
「…これはあれか?燃やせって事なのか?フラグ成立してるのか?」
「やってみたら分かるでしょ。えい」
サクラがチャッカマンで手紙に火をつけた。ってか何処から出したの?
ぱちぱちぱちぱちと音を立てて手紙が燃えて…。
「……………」
ただただ燃えて……。
あ、ヤバいわこれ。
「水持ってこーい!」
手紙持ってる俺も危ない状況です。
「いえっさー!」
ザバッ!
「ぷぉっ!」
サクラが『持ってきた』のでは無く『持っていた』液体によって火は鎮火した。
「緊急事態だったから手段は選ばなかった」
「だからってスプライトかけるなよ!しかも何で俺に!?」
手紙だけで良かったでしょうよ!おかげで服はビチャビチャ自分はベタベタだよ!
「てへっ♪」
てへっ♪じゃねぇよ!
「さーさー、手紙も無事だし続きを読もうよ」
「無事ではないんだけどな…」
幸い読み終わった部分までしか燃えてないので続きを読んでみる。
『あ、多分サクラが燃やすと思うからここから下は燃えない素材にしてるから』
どんな素材だ。
『私が作った素材だよ〜』
この手紙俺の思考読みすぎだろ。
『えっへん』
手紙が威張るな気色悪い。
『さて、存分にツッコまれたとこで話戻そっか』
そうですね。もう気にしません。
『実は今回来たのは叔母さん、つまりアンタらのお母さんに頼まれたっていうのもあったんだ』
「母さんに?」
『そ。ちゃんと生活出来てるかどうか見てきて欲しいってさ』
「ママが…」
『仕事が仕事だからね。アンタらの顔見たくても見れないんだよ。その辺汲んでやってね〜』
「そりゃあ…なあ?」
「うん。分かってるもん」
分かってる。サクラはそう言ったけど正直辛いと思う。まだ小学生なのに両親が家に殆ど居ないのは。
『ん〜、出来る事なら私も何とかしたいのは山々なんだけど……』
その気持ちだけで十分ですよチヅルさん。
『…大人だねぇカオルは』
ダテに兄貴やってませんから。
『それでも私には敵わない』
ハハ、仰る通りで。でもアンタは大人気ないだろ。
『という訳で私は去ります。止めないで下さい』
「「止めねーよ」」
あと今の言葉だけ無視かい。都合の良い手紙だな。
『…行かないでー!とか言って抱きついて来てよ』
「「や、めんどくさいし」」
『くそぅ、また来るからな〜!』
「「勝手にしろ」」
あー終わった終わった。
『そうそうP・S』
「「?」」
かと思いきや下の方にはまだ文章が続いていた。
『叔母さんにこの事言わないようにってキツく言われてるんだよね〜』
「「え?」」
『だから証拠隠滅の為に爆発する仕掛けしてあるからヨロシク♪』
「「え」」
二秒後。
我が家から一筋の光が。
ちゅどーん…………。
「けほっ」
「こほっ」
まるでマンガのように顔が真っ黒になった俺とサクラ。そして周辺。
……最後の最後まで金掛けさせやがってチクショウ。
ひらひら〜。
「?」
その時、上から燃えきらなかった手紙の一部が俺の額に落ちてきた。
「………」
剥がして見てみると。
『私が作った素材だよ〜パート2♪』
アンタ普段何してんだよ。
『色々』
─こうして修理費という異例のお年玉を残し、ただ颯爽と去っていく才能を確実に間違った方向に使っている従姉なのでした。
因みに…修理費、幾らしたと思う?
……六桁でした。
「どんだけぇ〜」
「古いな妹」
「終わりが『〜』だしチヅルさんに合ってると思って」
理由もどんだけぇ〜。
チヅルさんが帰っちゃいました……意外と好評だったんですが、決定事項なので…残念(^^; チヅルさんが気に入った方は次回の登場に期待しといて下さいm(__)m