─29日目 ぴーえすつりー─
「…それは?」
「ぴーえすつりー」
「名前を聞いたつもりじゃ無かったのに」
カオルです。只今うちの妹が謎の個体を入手した事により困惑しております。
「お年玉で買ったの」
「念のため聞くけどゲーム機かそれ?」
黒光りしてるしコントローラー生えてるし見た感じはゲーム機だ。
「そだよ。ぴーえすつりー」
「分かったから。分かったから本家に酷似した名前を連呼しないでくれ」
「本体を買ったらソフトも付いてきたんだよ。ぴーえす」
「だからやめろと!」
「まーまーとにかくやってみようよ。ほらコントローラー」
ほいとサクラに渡された黒のコントローラー。その形が虫の顔面に見えなくもない。不気味だ。
「はぁ…」
今思えばサクラはお年玉を即行で使うタイプだ。そしてその使い道は……。
変だ。
去年は一色のルービックキューブだったっけ。
今年も変だった。
変わらないなぁコイツも。
それに付き合う俺も。
「ところでカオル兄」
コントローラー握りながら物思いにふけてる俺に喋りかけてくるサクラ。
「あいよ?」
「ぴーえすつりーって何の略?」
「本体見たら分かるだろ。貸してみ」
「ほい」
無駄にゴツい本体を受け取り見てみる。
そこには『Pray Sukarabe Tree』と書かれてあった。
「なんのこっちゃ」
直訳したら『スカラベを祈れ、木。』だぞ?しかもスカラベだけローマ字だし。
「なぁサクラ」
「ほえ?」
「…やっぱりいい」
「?変なの」
お前にだけは言われたくなかったよその言葉。
そして俺はサクラにゲームをやらされた。
「ところで、どんなゲームなんだそのソフト?」
「アクション系って言ってた」
「お試し版とかじゃ無いんだな。新発売の機種なら最初は大体そういうのが付いてくるのに」
解りづらい人は某大手ゲーム会社が発売したコントローラーを振り回すゲーム機の、初期に発売されたソフトを想像してくれ。
「えーっとソフトは…横から入れるんだ。えいっ」
サクラがソフトを入れたと同時に、テレビの画面にスカラベのマークが写った。何とも奇妙である。因みにソフトはディスクタイプだ。説明するタイミングが今後無さそうなので今のうちに言っておく。
「無駄に画質が高いな」
「さすがぴーえすつりー」
「どの辺が流石なんだよ…あ、画面変わった」
「『バイオプラネット』だって」
「タイトルも混合してるとは恐れ入った」
言うまでも無くガンアクションである。
「カオル兄、あれ。『プレイヤーは男性キャラのブラウン、又は女性キャラのナンシーを選べます』だって。私ブラウンね」
「じゃあ俺はナンシーってオイ」
何が悲しくて女キャラ使わにゃならんのだ。
「始まったよ」
「俺の意見は無視ですか」
「取り入れないだけ」
コノヤロウ。
「うあ、すごっ」
気がつくと場面がいかにもアメリカ臭い街に変わっていた。
『ルール説明。生き残れ、以上』
「「は」」
テレビから聞こえた声と共に無数のゾンビらしき敵が現れる。
数がシャレにならねぇ。
『あ゛あ゛あ゛ー!!』
『キャアー!!』
『ぐわぁぁぁぁぁ!!』
※そのまま暫くお待ち下さい。
『ゲームオーバー』
「おぉぉ〜……」
「すさまじかったね」
「すさまじかったな」
『こんてにゅー?』
「…当たり前だ」
「カオル兄…やる気出てきたね」
「ゲーム風情に舐められっぱなしでいてたまるか!いくぞ!!俺達のゲーム魂を見せてやれ!!」
「おー!」
─30分経過。
『ガガガガガ!!』
「よしっ、大分ゾンビが減ってきたぞ」
「あ、ロケットランチャー発見」
「かましたれ」
「おぅいえー」
『ドオォォォン!!』
「威力高いな」
「負ける気がしないぜナンシー」
「まぁブラウンってば男らしい♪」
何なんだろうこの会話。
─更に10分経過。
『ゴバアァァァァァ!!』
「アイツでかいな」
「もしかしてボスじゃない?」
「だとしたら…倒せばステージクリアか」
『ビシューン!』
「うおっ!口からビーム出しやがった!」
「ビームは男のロマン…間違いない、ボスだよアイツ!」
「俺のスナイパーライフルを零距離でお見舞いしてやる!」
「私の三連ランチャーが火を吹くゼ!」
─そして更に30分経過。
『ごうんごうんごうん』
「次のステージのボスが要塞ってハードル高っ!!」
「腕がなるゼ!」
「そんなキャラなのかブラウンって」
「それっぽいでしょ?」
「どーでもいい」
「そだね」
─そしてそして。
『ステージクリアー♪』
「……もう外真っ暗だ」
「何時間プレイしてたの?私達…」
目がしょぼしょぼする。こりゃ相当したな。
「…セーブして終わろう」
「だね」
しっかり二つのセーブデータを作成してから電源を落とす。
「「つかれたー」」
同時に疲れがどっと押し寄せてきた。
「面白いけど危険だぞこのゲーム」
「キリが無い分余計に終わるタイミングが見つからなかったね」
「だなー…」
「うんー…」
「「…………」」
俺達の人差し指は自然と電源のスイッチに伸びていき…、
「「あと少しだけ」」
…それから一体どれ程の時間プレイしたのかは覚えていない。
でも全面クリアが出来なかったのは確かで、次に電源を落としたのは朝日を拝んだ時だった……。
恐るべし、ぴーえすつりー。
この前久々にゲーム機を見てみると…故障してました(泣) ショックです(;Д;) だからって買い直す金も無く…またまたショックです(;Д;)