─125日目 大阪編43:籠城と言えなくもない─
薫です。
結構大変なことになりました。
「狐瀧會の居場所が分からないだと……?」
無関係な人達が全員寝静まった丑三つ時。俺達斑鳩と玖紋夫妻は和室の大広間にて会議を開いていました。
「ええ。前までの本拠地は既に裳抜けのからだったそうよ」
みっちゃんの首肯に動揺する俺達────いや、俺以外。
「ま、そんな事だろうとは思ってたけどな……」
「カオル、心当たりでもあるの?」
向かいに正座しているイズナさんが尋ねてきた。
「そうじゃないですけど。南は無駄に頭のキレる奴だから、拠点を変えていてもおかしく無いかと」
「それもそうね……」
「んな真似されたら受けの体勢になっちまうな。性に合わねーが」
サクマが頭を掻きながらぼやく。確かに、いつ敵が現れるか分からない守りの状態より、ハッキリとしている攻めの方が幾分マシだ。それが団体となると尚更そうだと言える。
「旦那、どうする?」
「ん。分からん以上こんな力んでてもしゃあない。今日は身体休めて、何時でも戦れるようにしとけ」
「私もそれに賛成よ」
「二人がそう言うなら我々も従いましょう。皆も異存は無いな?」
シュウホウさんが一瞥すると、それぞれが頷いた。
────やっぱりこうなったか。大体予想は着いてたんだけど。
うーん。
面倒だなぁ…………。
場所は変わって大阪城。広大な敷地を持つ、大阪名物の一つと言える城である。
大阪府大阪市に聳えるこの城。今では豊臣な人が建てた当時とは違い、朝はラジオ体操目的のご老人で賑わい、昼は観光客で賑わい、夜は城がライトアップされ、朝でも昼でも夜でもホームレスがそこら辺に佇むという中々にユーモラスな名所となっている。
普段ならばそうなのだ。
しかし今夜、城近辺は愚か敷地内にすら一般人がいない。
見回りの警備員は虚ろな目をしたまま微動だにしない。
「──ふむ、まさか大阪城を乗っ取る事になるとは思わなんだわ」
その最上階。袴姿の老人が御猪口を片手に呟いていた。
相手はこの城を一人でこんな状態にした、笑顔を貼り付けた少年。
「連中も気付かなかったみたいだの」
「いずれはバレますが少しは時間を稼げるでしょう。ですがそれで十分。後は我々(・・)にお任せ下さい」
「ふん。まさかこの私が主らみたいなオカルト集団に頼る日が来るとは…………な。本当にやれるのだろうな?」
「御安心を。全て計画通りに進んでおります」
その言葉に、老人は口の端を吊り上げる。
「ああ、それと」
「なん────」
老人の顔から血の気が引いた。
先程まで半円を描いていた少年の眼は大きく開かれ、血走っていた。網膜が禍々しく揺れ、この世の物とは思えぬ輝きを放つ双眼。
「…………っ!」
「オカルト集団……と、仰有いましたよね? そういうのは、あまり言わない方が身のためですよ? 僕らは気が短いんで、侮辱されると命の保障は致しかねます」
今度は、少年の口端が歪む。口全体で三日月を描く様に。
「────あまり調子に乗るなよ、お飾りの人形風情が」
「……………………!!」
老人の手は震え、御猪口を持つ事さえ難しいまでになり。身体中の汗腺からは汗が吹き出し、息苦しさすら覚えていた。
「そうです。分かってくれれば良いんですよ」
その様を見た少年は何時もの笑顔に戻った。同時に、老人が身体の異変に気付く。
息苦しさが消えていた。それどころか、汗を掻いてもいないのである。
「…………!?」
「幻覚の一種ですよ。貴方がオカルトと嘲った力を使った、ね」
「……最早人間業では無いな」
「………………」
「あ、いや、気に障ったのなら」
「……くく」
「……?」
「くく…………ふふふ、『人間じゃない』か。っはははははは! そう、そうです、僕は、僕らは人を超越した存在!! 神に近き高位生命体だ! 良い、良い響きですねぇ!! そうは思いませんか会長さん!?」
狂った笑いを見せた少年に、老人は改めてこう感じた。
こいつは危険だ、と。
「私は平凡な人間だ。主らとは嗜好が異なる」
「ほう……? 成る程成る程、そうですか。それは残念」
両手を上げて肩を竦めオーバーな振舞いをする少年。
そんな時だった。
狐瀧會の若い組員が息を切らしてやって来たのだ。
「し、失礼します!」
「どうした」
「会長、大変です! 劉紋会の奴等が大阪城近辺まで来ているとのこと! 明らかに此方へ向かってきています!!」
「何!?」
「早いですねぇ。バレるの」
「おい南。話が違うぞ、これは一体────」
「ああ、まぁ今晩、貴方のとこの人達を使って特攻させましたから。そこから漏れたのでしょう。となると盗聴器もバレてた……か。やりますね、薫」
「な!? 貴様勝手に私の部下を────」
「別に良いじゃないですかそんなこと。あんなゴミの集まり、死んだって世間の為になるだけですし」
「てめぇっ! 人の命を何だと」
少年──南の発言に切れたのか、それまで黙っていた組員が南に掴み掛かった。
その腕が、遥か後方に吹き飛んだ。
「あ、ぁあぁぁぁあぁぁあっ!!?」
「気安く触らないでくれます? このジャケット高いんで。人の命? ゴミと一緒としか思ってませんが問題でも?」
「貴様……一体何を企んでいる……っ!」
「何をって……決まってるじゃないですか」
狐瀧會会長の問いに、南は笑顔で答えた。
「ゴミを全て消し去り、選ばれた人間だけが生きられる世界を作るんですよ。嘘偽りが全く無い、穢れ無き世界を。だから──」
それ以降は口には出さず、胸中で続けた。
(だからこそ、あの力が必要なんだ…………異能力の頂点、超読心術が……!)
『ぐあっ!!』
「すんません警備員さん」
「よっしゃ、無事到着や」
「当たり前だボケ」
「しかし良かったんでしょうか? 劉紋会に斑鳩を残さなくて」
「心配するな。手は打ってある」
「カオルさんが言うなら信じますけど……」
「グダグダ言っていても始まらない。行くぞ」
「にしても、まさか大阪城とはね」
「イズナ、夜のお城ってワクワクしない?」
「子供ねぇユウナは」
「かっかっか! 今からすんのは戦争だぜ?」
「…………(こくり)」
「……こんな時でも喋らないんですね」
「じゃあそろそろ行こうか」
『おうっ!』
「……俺の時は無視したのに」
「気にすんな、シュウ」
「んじゃ。狐瀧會と!」
「南をブッ飛ばしに!!」
『いざ突入ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!』
約二ヶ月ぶりの投稿となってしまいました。
バタバタしてたんです、はい。言い訳です、はい。
次回から戦闘率が上がります。それはもう上がります。
あー、そろそろ大阪編を終わらせないとなー。とか思いつつ、今回はこの辺で。