─12日目 物は使いよう─
「あのさー」
「おうよ」
何だろ?と思いつつ返事をするのは俺、カオルです。
今はコタツでぬっくりしながらごろごろしてます。
んでもってちょうど反対側にいるのが、俺に呼び掛けてきたサクラです。
「ヒマ」
「おやすみ」
うん、相手にした俺が馬鹿だった。
「ていっ」
ガンッ!
「痛いし熱いっ!!」
コタツ内のマイフットを器用に蹴り上げ、金網に激突させるサクラ。イヤ相当効いたんですけど…。
「何故に蹴る!?」
「私のことバカにしたでしょ」
前々から思ってたけど、この小娘には心眼でもあるのでしょーか?
「で、話戻すけどさ。私ヒマなの。フリーなの。フリーダムなの。だから遊ぼ」
暇を通り越して自由を掴み取りましたかこの娘。
「でも遊ぶって言ってもコタツから出たくはない」
制限のキツい自由だなオイ。
「どうしよー?」
「俺にふるなよ」
「迷える子羊に救いの手をー」
またコイツは変に小難しい事を……。
「やれやれ…ならば教えてしんぜよう」
「ははー」
サクラは座った状態のままでコタツのテーブルに両手をつき頭を下げる。
「それでどうするの?」
ふっ、そんなの決まってるだろ。
「寝ろ。だからおやすみ」
「えいやっ」
ゴンッ!
「純粋に痛い!!」
コノヤロウ……俺のレッグに踵落とししやがった…。脹ら脛がじんじんするじゃないか。
「何故に落とす!?」
「解決策になってないから」
俺にとっては充分解決策なんだが…ダメか。
「ならこれはどうだ」
「何?」
「猫ボコを力の限り叩きのめす」
「それっ」
ガンッ!!ジュー。
「あちちちちちちち!?」
熱い熱い!ズボン越しとはいえ金網にずっと押さえつけるのはNGだってば!!
「何故に押さえつける!?」
「猫ボコの扱いが可哀想だったから」
俺の方がよっぽど可哀想だっての!
「だっていかにも殴ってネ♪って顔と素材してるだろソイツ!!」
びしっ!と俺はサクラの近くに転がってる─未だ正体不明のぬいぐるみ、猫ボコを指差す。
「それはカオル兄の個人的な考えでしょ。私からしてみれば普通のぬいぐるみだよ。殴る?そんな恐ろしい事できる訳ないじゃん」
猫ボコを抱きかかえながらサクラは俺に反論してくる。
「ちょっと待てや!昨日それに一晩中正拳突きしてたのは何処のどいつだ!?」
「土湖の怒威津さん」
土湖ってそれこそどこだよ!?しかも漢字厳つすぎじゃないのかドイツさん!
「まーそれは冗談として。早いとこ何かいい方法思いついてよ」
「完全に人任せですかい」
「いえす」
「おーのー」
「まき割りに使うのは?」
「おーのー」
って俺に何言わせるんだよ!
「ヒマだよーヒマすぎてマヒしそうだよー」
もし本当になったらえらいこっちゃ。
このままじゃラチがあかないと悟った俺はある提案をする事に。
「んじゃこうしよう。コタツから出ずに済んで、尚且つ面白い遊びをどっちが先に編み出すか勝負する。どう?」
聞く必要も無いのは分かっていた。何故なら、勝負と聞けばサクラは基本……。
「受けて立つよ!」
ほらあっさり。前髪がぴこぴこ揺れてるのが気になるけどこの際どうでもいい。
「よし、じゃあスタート!」
そう…このまま考え続けてれば何もせず平和な一日を送れる。それが俺の作戦。名付けて『気づいたらもう夕方だったよいやー参ったやられたねあっはっは作戦』!!その名の通り笑いが止まらんわあっはっは!!
「へぇーそうだったんだー……」
「そうだったんだよあっはっ…………は?」
あのー……サクラさん?
どうして俺の目の前にいらっしゃるのですか?
どうしてそんなどす黒いオーラ全開で放ちまくってるんですか?
そもそも俺声に出して言いましたっけ?
「心眼を甘く見るなよ」
「あー成る程ー…」
でもさ、心眼って関係ないんじゃあ……?あと口調変わってる。
「じゃあ勘で」
あーそれなら納得ー。
「カオル兄?私の提案聞いてね」
サクラは俺の頭をむんずと掴いながら笑顔で言いました。
俺の背中に嫌な汗がだらだら流れる。コタツが熱いからかな?うんきっと、
「カオル兄で遊ぶ」
違ったねチクショウ。
ゴンッ!ジュジュジュジュジュジュジュジュ
「痛い!あと熱い!いやむしろあつつつつつつつっ!!」
「あー楽しー♪」
「うわぉっ!ちょ、待って!顔はダメだって、脚はともかくさ!!ね、サクラ様?もう一回考え直して下さいよ!ここまでいったらもうイタズラのレベル超越しちゃうよ!?あ、イヤ、ムリ、おねがいっ、やめアーーーーッ!!!!」
「あっはっはっはっは♪」
──1時間後。
「あースッキリしたー」
「熱い…痛い…コワイ…」
そこに原形を留めた俺の姿は無く……。
「気分も良いし今日は私が買い物してきてあげよー♪いってきまーすっ」
自分で言うほどに上機嫌のサクラは何を買うのかをすら俺に聞かないまま外へと飛び出していった。
「う…いてて」
ふと玄関の方へ……サクラがさっきまで居た場所に目をやると、
「…猫ボコ」
またもや床に転がっていた猫ボコが視界に入ってきた。
「………」
のそのそと身体を引き摺りながら猫ボコへと手を伸ばした俺は、
「…ふーんっ」
ソレの尻尾を掴み、叩き付けてみた。
ぶにょっ。言葉で表すならこんな感じの音が家に響く。
しかしその音が心地よく思えて…。
「…ぐふっ」
そこで俺は力尽きた…。
…でも、
なんとなく、だけど、
猫ボコの用途が少し解った気がする。
コタツで火傷した友達を見て書いてみたこのお話。 皆さんもコタツでの火傷にはご注意下さい(^^;