─11日目 貸し借りは忘れないように─
青い空、白い雲!
そして、
青くて白い俺の顔!
「うぉっ!どうしたんだカオルその顔!!」
「もうどうにでもしておくれ……」
あ…どうも、意気消沈なカオルです。
教室で机に俯せている状態の俺は今この現実から目を背けたい訳で…。
でも無理だからこんな顔な訳で…。
「あー相当ヤバイって言ってたもんな」
そう、実は本日……
テストの返却日だったのです。
「いっそ俺を殺してくれナリ…」
「語尾が可笑しな事になってんぞー」
「そんなのどうでもいーにょ…」
「…こりゃ重症だわ」
先程から俺に話し掛けてるカイトが肩をすくめる。
「どーしたもんかねー」
もう俺は疲れたんだよ…じゃ後はカイト宜しくな。
──っつー訳でこっからは俺、カイトがお送りしまっす。
えーカオルはテストの結果が悪くて落ち込んでるんだよ。以上。
「だらしねーなー、過ぎた事は仕方無いだろ」
「だってさ…平均的には別に大丈夫なんだけどさ…」
「じゃあ良いんじゃねーの?」
そういや俺とあんま変わらなかったっけ。
「理科系がさぁ…勉強しとけばもうちょい取れたのに…コタツがさぁ」
「何言ってんだよ、欠点ってワケでも無いだろが。あとコタツは仕方無いだろ」
俺でもそーするもん。うん。
「でもやれば出来てたのにしなかったんだぞ?それって凄い損した気分なんだよ」
お、少し復活したな。眼に多少の輝きが戻ったし。
「ま、その分次に頑張ればいーじゃねーか!」
「だけどさ…」
「だけどもゴーヤもあるか!」
「それ言うならヘチマだろ」
お、普通にツッコんだな!ならもう平気だ!
「とにかくだ!俺が言いたいのは気にすんなってこと!」
「むぅ…それもそう、かな」
カオルがゆっくりと起き上がる。やっと観念したか、と俺が思ったと同時に、
「た、高橋くん!」
カオルのちょうど真ん前に一人の女子が現れた。
「えっと…何?」
そんな女子にカオルは疑問を抱いたみたいだ。俺もだけど。
「あ、ああああの本日はお日柄もよくまた大雨でありましてっ!」
どっち。
「また大雪が降った後台風が接近するこの頃ですがっ!!」
だからどっち。
「と、とりあえず落ち着いて」
何故か緊張して今日の天候を波乱万丈な物に変換させてしまった彼女を宥めるカオル。
「で、コイツに何か用?」
改めて聞いてみる。
「はぃっ!よかったらこれをどうぞ!!」
そんな彼女が両手に持ってカオルに差し出したのはノートと参考書。
「これって…理科のノート?」
こくこくこくこく、と相手は赤べこのように首を振る。
恐らくカオルの様子を見て心配したのだろう。そうじゃなければこんな事はしない。
「そ、そそそれ使ったら私も成績上がった、から、そのっ」
途切れ途切れだが必死に参考書の良さを伝えようとする女子。
「へーそうなんだ。じゃ貸してもらおっかな」
そう言ってカオルはその参考書とかを受け取る。
「っ!どうぞ喜んで!もう一生使ってやって下さい!!」
顔を真っ赤にしながら渡す女子。あと一生は長くないか?
「イヤ、流石にそれはないけどさ」
「あぅっ!」
そら見ろ。
「でもわざわざ有り難う。次は頑張るよ」
「え、あっうん。頑張ってね高橋くん」
「カオルでいいって。皆もそう呼んでるし」
カオルが彼女に微笑みながらそう言うと、
「!!…は、はははいですカオルくうぅぅぅぅん!!」
それだけを言い残して走り去って行った。うわー速えぇ……。
「何か不思議な娘だったな」
「あ、ああ…」
あら?カオルが珍しく動揺してる。
「どーしたよ?」
「あのさ…」
ゆっくりと口を開く。
「今の…誰だっけ?」
…、
……、
………誰だろ?
「思い出せねぇ…」
同じクラスなのは知ってるんだけどなー。
「あ、ノートに名前書いてる」
おい、気付くの遅せーよ俺ら。
「んで何て名前?」
「えーっと……『本城 遥』って書いてる」
「ホンジョーね、覚えとこ」
なんか面白い娘だったし。
「さて、折角借りたんだしやろうかな」
「ところでお前何点だったの?」
「78点」
嫌みかっ。
ま、俺は95点だったけどなっ。
「嫌みかっ」
お前に言われたくないわっ。
…何だこのやりとりわっ。