束縛彼氏
友達の友達の友達だった彼。
ともに過ごす時間は不思議と心地良くて。
私、お付き合いすることになりました。
その時は全然、普通の男の人だと思ってたので……。
ある日自宅で、机の角に足の小指をぶつけたのですが。
彼が電話をかけてきて。
何だかものすごく怒っていて、怖かったです。
「痛いじゃないか!」だって。
彼、好きな人が肉体の一部になってしまう病気だったようなのです。
ある日友達と外食をして、素敵なシェフの料理を味わって感動しました。
同居しはじめた彼のもとに帰ると、ひどく上機嫌でした。
「すっごくおいしかったね。何食べたの?」だって。
携帯に撮っておいた写真見せてあげました。喜んでいました。
ある時には、すれ違うカップルに心無い言葉をかけられて。
悲しくなって心が沈んでしまったのですが。
やはり彼から電話がかかってきて、抱きしめてあげるから帰っておいでって。
心の痛みまでそのまま感じるようなのです。
指摘したら、「当たり前じゃん」って言ってました。変な人です。
結婚して、子供を授かりました。
男の子でしたが、赤子を抱く夫はいつも目を細めて。そのまま溶けてしまいそう。
見る見る育って、中学ではサッカー部に入りましたが。
「ヘディングが痛いからやめろ」と夫が言い出して親子喧嘩に。
息子も、何でこんな父を持ったか、嘆いていました。
良い会社に就職した息子が連休に、旅行に誘ってくれました。
夫はちょうど大切な打ち合わせで、私達二人で美しい自然を見てまわりました。
そしたら病院から電話があって。
夫が交通事故に遭ったらしく。
帰った時には、もうこの世にはいませんでした。
車にひかれたそうですが。
どんなに痛かったことでしょうか。
あんなに優しかった夫のそんな痛みにすら気づけなかったことが。
私達、くやしくて。
申し訳なくて、泣きつづけました。
なくなって悲しい、彼の束縛。
今日また足の小指をぶつけたのですが。
あの遠い日を思い出しまして。
天国から電話でもかけてくるんじゃないかなって、携帯見ちゃいました。
あのお怒りの声すら、今はこんなに愛おしい。
病気を共有できなかった自分こそが、どこか欠陥品にすら思えてしまって。
せめて供養だけは、きちんと続けていこうと思いました。
秘技、束縛返し。