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束縛彼氏

作者: 鈴木美脳
掲載日:2018/06/25

友達の友達の友達だった彼。

ともに過ごす時間は不思議と心地良くて。

私、お付き合いすることになりました。

その時は全然、普通の男の人だと思ってたので……。


ある日自宅で、机の角に足の小指をぶつけたのですが。

彼が電話をかけてきて。

何だかものすごく怒っていて、怖かったです。

「痛いじゃないか!」だって。

彼、好きな人が肉体の一部になってしまう病気だったようなのです。


ある日友達と外食をして、素敵なシェフの料理を味わって感動しました。

同居しはじめた彼のもとに帰ると、ひどく上機嫌でした。

「すっごくおいしかったね。何食べたの?」だって。

携帯に撮っておいた写真見せてあげました。喜んでいました。


ある時には、すれ違うカップルに心無い言葉をかけられて。

悲しくなって心が沈んでしまったのですが。

やはり彼から電話がかかってきて、抱きしめてあげるから帰っておいでって。

心の痛みまでそのまま感じるようなのです。

指摘したら、「当たり前じゃん」って言ってました。変な人です。


結婚して、子供を授かりました。

男の子でしたが、赤子を抱く夫はいつも目を細めて。そのまま溶けてしまいそう。

見る見る育って、中学ではサッカー部に入りましたが。

「ヘディングが痛いからやめろ」と夫が言い出して親子喧嘩に。

息子も、何でこんな父を持ったか、嘆いていました。


良い会社に就職した息子が連休に、旅行に誘ってくれました。

夫はちょうど大切な打ち合わせで、私達二人で美しい自然を見てまわりました。

そしたら病院から電話があって。

夫が交通事故に遭ったらしく。

帰った時には、もうこの世にはいませんでした。


車にひかれたそうですが。

どんなに痛かったことでしょうか。

あんなに優しかった夫のそんな痛みにすら気づけなかったことが。

私達、くやしくて。

申し訳なくて、泣きつづけました。


なくなって悲しい、彼の束縛。

今日また足の小指をぶつけたのですが。

あの遠い日を思い出しまして。

天国から電話でもかけてくるんじゃないかなって、携帯見ちゃいました。


あのお怒りの声すら、今はこんなに愛おしい。

病気を共有できなかった自分こそが、どこか欠陥品にすら思えてしまって。

せめて供養だけは、きちんと続けていこうと思いました。

秘技、束縛返し。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すてきなお話ですね。うわーん。
2019/11/05 12:04 退会済み
管理
[良い点] 束縛という愛情。 彼に出会った主人公も、主人公に出会えた彼も、それで幸せなのだと最後にほっこりしました。 変な病気なんですけどね(笑) 息子に「ヘディングやめろ」はちょっと笑いました。歳…
[良い点] 短い中に面白いネタとテーマがあって、読了後の満足感がとても大きな短編でした。彼の病気も単なるネタではなく、ラストでとても大きな愛を失ってしまったことが描かれていて、「秘技」発動の心境に至っ…
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