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「一樹君……さすがに信じがたいな」
「ですよねー」
無事に家まで帰りついた俺達。
詩織のお父さんとお兄さんに俺達の身に起こった事を話した。
包み隠さず全てをだ。
駅のホームにいた時、魔法陣で見知らぬ部屋へ飛ばされた事。
俺と詩織だけでなく他にも男女四人がいた事。
あちらで何をするでもなく一瞬のうちに元のホームに戻っていた事。
家に帰り俺達の身に起こったこと、見た事、推測などを話し合い、身体能力の向上と特殊な能力が備わった事に気付いたと。
そして今日、学校の帰りに起きた出来事を順を追って話した。
そこで詩織のお父さんである信二おじさんから先ほどの言葉を頂いた。
おじさんは派出所勤務の警察官。
見た目からして固そうな昔かたぎの人だ。
頂いた言葉は、俺でもそう言うだろうから仕方ない。
乾いた笑いを漏らす俺であった。
「論より証拠。その力、見せてもらえないか?カズ」
黙り込んだ信二おじさんに変わって話を継いだのは詩織のお兄さんであり、俺の兄貴分でもある信兄こと信太郎さん。
上級試験を突破したエリート警察官でもある。
一昨年まで大学生だったのに、すっかり社会人っぽくなっている。
メガネの似合う好青年で詩織の兄らしく容姿も整っている。
ただ……爽やかな笑顔は見た目だけで、結構腹黒いんだ信兄。
詩織には馬鹿甘だけどな。
シスコンを地で行っている。
だから忙しい中、詩織の電話一本ですっ飛んできた。
多分、大事な仕事を後回しにしていると思う。
その信兄は楽しそうな顔。
俺がラノベを読みだしたのは信兄が貸してくれたからだったりする。
異世界とかファンタジーとか大好きなんだよなぁ、この人。
うずうず、わくわくしているのが伝わってくる。
詩織のお母さんと、うちの英二は居間でテレビを見ている。
英二はとても可愛がられている。
英二もニコニコして楽しそうだ。
おばさんの作ってくれた夕飯、ハンバーグの話で盛り上がっている。
英二の好みに合っていたらしい。
くっ、俺のじゃダメか……頑張ろう……。
おばさんは英二の相手をしつつ、こちらの話に耳を傾けている。
詩織の事なので無関心ではいられないようだ。
俺達も家族の中で隠したい訳ではないので問題ない。
「詩織、判りやすいからそっちから試してくれ。おじさんに頼む」
「了解!お兄ちゃん、お父さんから少し離れてね」
「任せろ!!」
「おいおい、心配になってきたぞ?」
「大丈夫!任せてー」
俺は詩織に頼む。
俺の力とは違って、他の人にも判りやすいからな。
証明するにはもってこいだ。
その後で俺の力を見てもらえば話がスムーズになるだろう。
出番と聞いて嬉しそうになる詩織。
そんな詩織に言われてとても嬉しそうになる信兄。
さすがシスコン。
妹からのお願いは何でも嬉しいらしい。
逆におじさんは不安そうになっている。
「『スリープ』!」
詩織が両手をおじさんに向けて言った。
たぶん魔法使い的なイメージで見た目も入れたのだろう。
家の中ではこういう子供っぽい事もしたりする詩織。
ちょっと可愛いかも。
信兄はいつの間にかデジカメを持っていた。
見逃さない男、信兄。
おじさんはソファーに背中を預け、目を瞑った。
そして穏やかな寝息。
俺以外で初めての特殊能力行使。
ドヤ顔の詩織。
ふふんっ!と鼻息も荒い。
そんな詩織を目を細めて見ている信兄。
目じりが下がってんぞ?
デジカメも大活躍。
だがそんな様子から一転、おじさんの横に移動し本当に寝ているのかを確認しだした。
肩を揺すり、手の甲をつねり、耳を引っ張った。
起きないおじさん。
俺は詩織の力を自分の身で確かめているから疑わない。
信兄は色々試してから詩織に向き直った。
「確かに寝てる……すげぇ!力は本当にあったんだ!!」
眼鏡の奥で目をキラキラさせている信兄。
ガッツポーズまで付いている。
興奮している様子。
そして空飛ぶ島を見つけたかのような物言い。
バルス。
「ま、魔法は!?ステータスは!?鑑定は!?アイテムボックスは!?」
信兄が詰め寄って来た。
詩織の能力を見て他の力についても気になったようだ。
解る。
うんうんと、俺が頷いていると信兄がソファーとソファーの間にあるテーブルに膝をつき身を乗り出してきた。
そして俺の肩を掴んで来る。
あ、俺の玄米茶が!ってさすが詩織、信兄の動きを読んでいたな、セーフ。
信兄は興奮しすぎだと思います。
気持ちは解りますけどね……俺も通った道だし。
ええ、一人になった時に試しましたとも。
ま、なかったんですけどね(泣
「残念ながら……」
「ぐぬぬっ」
俺が信兄のあげたモノがないと言うと悔しがる信兄。
力を失くしソファーに戻った。
その気持ちも解ります。
俺も通(略
「でも詩織の『スリープ』凄くないですか?護身にもなるし」
「それなっ!詩織は凄いんだ!悪い虫は全て排除するようにっ!!」
「えへへー、我が力見たか!!」
「御見それいたしました、お嬢様」
「よきに計らえー」
「ははーっ」
「仲の良い兄妹だよね」
「もちろんだっ!!俺と詩織以上に仲の良い兄妹は存在しないっ!!」
「え、えぇ」
俺が能力の話に戻すと、喰い付いてくる信兄。
可愛い妹を褒めたくて仕方ないらしい。
詩織は俺と信兄の反応にご満悦。
何かキャラ設定でもありそうなしゃべり。
この間貸したラノベのせいかも知れない。
そして時代劇風なやりとり。
俺が見たままの感想を呟くと、待ってましたと言わんばかりの信兄。
とても嬉しそうだ。
俺はちょっと引いてるけどな。
「で、親父はこのままか?まったく起きないんだが」
「んー、カズちゃんに試した時はお腹に一撃だったかな」
「あれは酷かった……」
「お兄ちゃんなら、どんと来いだぞ!」
「はいはい」
「本当だぞ!」
「それは置いておいて、かなりの衝撃や痛みがないと起きないと思いますよ」
「そんなにか」
「うん」
「そんなにです」
信兄はやるべきことを忘れていなかった。
あっさり話を戻した。
おじさんを見て詩織に聞いている。
このまま眠り続けるのかと。
起こす方法を教える俺達。
「まぁ、俺さえ起きていれば問題ないか……話を進めよう」
信兄、合理的というか薄情というか、結構酷い。
寝ているおじさんを放置することにしたようだ。
まぁ、警察の力を借りるのであれば上にいる信兄の方が適任ではある。
「確かに特殊な力はあるらしい。次はカズだな」
「おう。それじゃ……『カウンター』『職場で気になっている異性の数』!」
信兄が俺に向き直った。
詩織の力はもう疑っていない様子。
次は俺の番か。
俺は一応言葉にだした。
みんなに判りやすいようにね。
信兄、今は彼女いないって言ってからな。
詩織情報。
織田さんちにいる全員の頭、その上に数字が出た。
いや、職場という条件のせいか俺と詩織、英二には数字が出ていない。
棒線が出ている。
俺達の場合は学校で、と聞かなければいけないのだろうか?
新たな発見であった。
肝心の信兄の頭上には……一。
シスコンだが、ちゃんと気になっている女性がいるらしい。
ぷぷっ。
俺の隣に座っている詩織が俺を凝視している。
なに?
「カズちゃん……私にも数字って出てるの!?」
「うんにゃ、職場って聞き方が悪かったみたい。棒線のみだ、新しい発見だな」
「そっか!」
詩織が俺に詰め寄って来た。
近い近い近い!!
顔が近いよ!!
俺は何とか返事をする。
返事に満足したのかホッとした顔になった詩織。
なんだろね?
「あー、俺には数字が出てるのか?」
「信兄も男だねぇ……職場で気になっている人が一人いるってさ」
「わぁ!」
「信太郎、今度連れて来なさいね?」
「……そんなやつはいない」
「照れちゃって……ぷぷっ」
「殴られたいのか?」
「サーセン!!」
「まぁ、いい。だがそれは適当に言っても当たりそうだろ。もっと違うのを頼む」
困った顔の信兄。
俺が一って数字を言うと、歓声があがった。
詩織である。
そして詩織のお母さんからの言葉もあった。
今度連れて来いと。
若干の間、その後でいないと言い張る信兄。
俺がその様子をからかうと拳を握る姿が目に映る。
即、降参の俺。
そして違う事で証明しろとの御達し。
「じゃー、『カウンター』『今月、部下に怒った回数』」
月が替わって一週間ちょい。
これでどうだろう?
さすがに他の人には答えられないはず。
信兄の頭上に出た数字は二。
ゼロじゃなかったな。
自分の有能さを他の者にも求める傾向があるから、きっと怒ってると思ったよ。
まぁ、褒めている回数はもっと多いんだろうけどさ。
飴と鞭。
使い方が上手いんだよなぁ……何度痛い目にあった事か。
詩織の分までこっちに来るんだもんな。
とほほ。
「数字は二。思いあたる?」
「……あぁ。合ってるな」
「怒りんぼ?刺されないようにねー」
「詩織が酷い……」
「冗談だよー」
「認めざるを得ないか……」
正解だったようだ。
詩織が信兄をからかう。
やっぱり仲がいい。
そして信兄が自分の足の上に肘を置き、ゲンドウ風に手を組んで呟く。
認めざると得ないと。
容姿がいいとこういうのも絵になる。
お、俺だって似合うはず!
……放っておいてくだされ。
「前提はクリアだな。では本題だ」
「うん」
「だね!」
「その黒いスーツの男が、今までに人を殺した数が三、今日殺した数は一、そうだったな?」
「うん……」
信兄、真面目モードだ。
こうなると威圧感がある。
詩織は文武両道。
信兄もそうだ。
しかも詩織の一段上をいく。
なるべくしてなったエリート様だ。
「ふぅ……今日、駅の周辺で殺された人がいる。絞殺だった」
信兄の声が低く、小さくなった。
英二に聞かせないためだろう。
そういう所はキッチリしている。
さすが真面目モード。
「黒い服、男ってのが現場の聞き込みで判った。どうやらカズと詩織が見たその黒いスーツの男って可能性が高くなった」
「さすが警察。仕事が早いね」
「ねー」
「時間帯もだいたい合っている。顔は覚えているか?」
「おう」
「覚えてるよ」
「そうか、なら協力してくれ。明日、人相書きが出来る者を連れて学校まで迎えに行く」
信兄はこちらの話を聞く前に、ちゃんと調べていてくれたようだ。
大雑把な詩織の話だけで動いてくれるとはな……ありがたい。
いや、シスコンなだけって可能性も捨てきれない。
そして俺と詩織に捜査協力の依頼。
使える者は使う。
さすが信兄。
「もちろんだ……と言いたいけど」
「むっ」
「カズちゃん!?」
俺の言葉に反応する信兄と詩織。
「もっと話を早くする方法がある」
「なんだ?言ってみろ?」
「俺の『カウンター』で出る数字はフォントを変えられるんだ」
「……続けろ」
「数字を縦長にすると天まで伸びるんだ。光の柱みたいに見える。それは建物の中にいようが見える」
「ほう……だがさっきも力を使ったろう?上書きされたんじゃないのか?」
俺は言葉を続けた。
『カウンター』、数字の力、それで出来る事を伝える。
光の柱のように見えると話すと信兄は色々と察してくれた。
理解が早い。
そして疑問をぶつけてくる。
本当に理解が早いね、この人。
夜、寝床で異世界の話でも妄想してたのかな?
オレ、ヒトノコト、イエナイ。
「数字の固定化も出来る。ちゃんと残したままにしてあるよ」
「でかした!カズ!」
「さすがカズちゃん、痺れる憧れるー」
「俺は許さないからな!」
「何のお話?」
そして今も黒スーツから光の柱が伸びていると教えると信兄がソファーから立ち上がって、俺を褒めてくれた。
詩織は俺をちゃかしてきたが、理解はしてそう。
詩織も優秀だからな。
明日の予定が決まった瞬間でもあった。
おじさんはベッドに運ばれました。
良い夢を見てください。
おやすみー。