1-4
1-4
「やっぱりそっちかよ!!」
詩織は隣の家に帰っていった。
居間でテレビを見る俺。
その隣で宿題らしきものをやっている英二。
そんな英二に、俺は『カウンター』を使ってみた。
結果を見て、つい叫んでしまったのである。
俺を見て目を丸くしている英二。
「な、なに?だいじょうぶ?」
ええ、心配されてしまいました。
残念なものを見るような英二の目。
円らな瞳が俺に向けられている。
ごめんなさい。
「いや、なんでもないんだ!ちょっと考え事をね」
「そう?本当に大丈夫?お母さんにれんらくする?夜勤だけどれんらく出来るよ?」
「だ、大丈夫!」
俺は誤魔化すように返事をする。
それでも心配そうな英二。
看護師である母親に連絡をいれようかと聞いてくる。
心配かけてすまぬ、弟よ。
どっちが兄か判らないって?黙っててもらえますか?
少しの間、英二に凝視されました。
一応大丈夫だと思っていただけたようです。
そんな英二はシャーペンを持ってノートに向かった。
しかし……やっぱりそっちで間違いないのか。
俺は先ほど英二に試した力『カウンター』の事を思い出す。
力の発動には「カウンター」と口に出す必要はなかった。
頭でそう思うだけで良かった。
発動した力。
英二の頭の上に数字が出ていた。
白い数字。
千八百七十一、数字はそう出ていた。
何の数字か?
『今までに食べたトーストの枚数』であった。
D.O様に聞かれても答えられちゃうね!!
って動揺してるかも。
ええ、カウンターは数字を数えてくれる能力でした。
ただの数字ではない。
誰も知らないような数字ですら表示される能力。
カウントで答えられる質問なら答えてもらえる。
アカシックレコードでもあるのだろうか?
アクセス権限がもらえたのかね?
凄い!
凄いけど……反射能力ではなかった。
薄々気づいていたけども。
頭に名前が浮かんだ後でどんな事が出来るかも浮かんだからね……。
それでも攻撃反射とかって男心をくすぐるじゃん?少しくらい期待したっていいと思うんだ……。
それに比べたら地味でした。
ええ。
地味。
▼
『カウンター』
魔法陣のおかげ?で手に入れた力。
地味。
そう思っていた時期もありました。
「カズちゃん、なにニヤニヤしてんの?ちょっと気持ち悪いよ?」
教室で詩織に気持ち悪いと言われました。
余計なお世話だ!
顔は元々だ!
ってなにを言わせるんだ!!
授業の前に『カウンター』を使ってみたんだ。
『昨夜、一人Hをした回数』
あの真面目そうなメガネ委員長がねぇ……ぐふふっ。
バレー部のあの子も運動では発散できなかったのかな?ぐふふっ。
ギャルっぽいあの子はゼロか……意外だ。人は見かけによらないな、うん。
そんな訳で詩織に、にやついている顔を見られてしまった。
まぁ、野郎どもの数字が俺にダメージを与えてくれたのは内緒だ。
全員の頭の上にでちゃうんだもの。
いらん想像をしてしまいそうだった。
「詩織、おはよう!」
「しおりん、おはよぉ」
「茜ちゃん、萌ちゃん、おはよう!」
俺のニヤニヤ顔が治まる前に女子の声。
元気な声と今にも眠りそうな声。
その声は詩織に向けられていた。
詩織が挨拶を返す。
元気のいい方は詩織と被る部分が多い元気っ子、柴田茜。
ポニテで気の強いテニス部員。
身長も詩織ほどではないが大きい。
百六十半ばくらい。
詩織をしおりんと呼び、気怠そうな感じのしゃべりをしているのは、前田萌。
ゆるふわさん。
ぼけっとしている姿を結構見かける。
見た目通り運動は苦手らしい。
織田、柴田、前田。
三人とも田の字が入っているので一年一組のサンダースと呼ばれている。
それぞれ違った魅力があって既にファンがいるくらいの人気者。
俺達のクラスで付き合いたい女子ベストファイブに入っている三人でもある。
今も教室の端から野郎どもの熱い視線を集めていたり。
俺はコッソリ気配を消している。
野郎どもの目に入っていないと思うが、いらん恨みは買いたくない。
早くホームルーム始まらないかな。
窓の外を眺めたり。
空が青いなぁ。
▼
詩織と帰宅。
部活?
今日は買い物優先。
ちゃんと英二に食べさせないといけないのだ。
にーちゃん、頑張るよ。
うちは父を事故で亡くし、母親の稼ぎで生活している。
お金には困っていない。
大富豪という訳ではないが、少なくとも貧乏ではない。
でも働きにでている母親の手伝いくらいはしている。
弟にさせる訳にはいかないからなっ!
子供だし、まだまだ遊んでいてもらいたい。
歩きながら『カウンター』を使う。
いつもならどうでもいい人の群れ。
それが数字で答えてもらえると、ちょっと親近感が湧く。
『振られた回数』
『付き合っている異性の数』
『親友の数』
『カウンター』面白い!
誰かの秘密を知ってしまう快感。
治安の良い我が国フソウ。
そんな国で戦闘系能力を得てどうするというのだ!?
時代は情報。
情報化社会なのだよ!
詩織の『スリープ』は便利そうだが、俺のも負けてない!
負けてないったら負けてない。
『今日、発情した回数』
うはっ!
あの綺麗な奥さんっぽい人が!
うぉっ!中学生?いや小学生に見えるんだが……世界は広いな。
スーツのお姉さん、カッコイイのに欲求不満?
ナンパとかした事ないけど、上手く出来そうじゃね?
サイコーかよ!!
いやサイコーではないか。
透明化とか時間停止とか精神操作とかあったら、そっちが上だよな!?
力の使い方によこしまさを感じる?
男子高校生に何言ってんですか?
黙っててもらえます?
ぐふふっ。
騒がしいと思ったらパトカーと救急車が通り過ぎて行った。
「なにかあったのかな?」
「なんだろな」
俺の隣を歩く詩織が通り過ぎて行ったパトカーを振り返って見送った。
詩織はパトカーが通ると見送る。
彼女の父親が警察官だからだ。
派出所勤務。
今日も働いているはず。
だから警察が動いていると気になるのだろう。
「救急車も通ったね」
「事件かな……物騒だねぇ……」
「うん」
俺と詩織は、また歩き出す。
事故?事件?
かなり平和なこの街。
ちょっと気になった。
数……これかな。
『今までに人を殺した数』
なんてね。
ゼロ、ゼロ、ゼロ……。
ゼロだらけだ。
まぁ、当然か。
次は何の数字を見ようかな。
考えつつ人の上に出ている数字を目で追っていると、ビルの陰から男が出てきた。
俺は視線を向けた……男の頭の上にある数字はゼロではなかった……三。
数字は三だった。
今迄に三人殺している?
男とすれ違う。
つい振り返ってしまった。
男も何かを感じたのか、振り返った。
黒いスーツ。
普通の人に見えるが目が違う。
暗い目。
その目には何も映していない……そんな気がした。
ヤバイ!
俺は振り返った事を遅まきながら後悔した。
俺の顔を見た後で男の口元が歪んだのだ。
ヤバイヤバイヤバイ!!
俺の中で警鐘が鳴り響く。
「走るぞ」
「えっ?」
「いいから!」
俺は詩織の腕をとって駆け出した。
驚く詩織。
強引に引っ張った。
直ぐに視界から消そうと思って角を曲がる。
その時に見てしまった。
立ち止まったままの黒いスーツの男。
男の口元は歪んだままだった……。