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呆然とした俺と詩織。
それでも来た電車には乗った。
後ろにいたはずの男一人、女三人は乗ってこなかった。
それどころか姿が消えていた。
「カズちゃん……今のって……」
「帰ってから話そう」
「うん……」
いつも元気な詩織がオロオロして小さい声を出している。
これも珍しい。
さきほどの現象は、それだけ詩織に衝撃を与えたという事だろう。
俺にだって与えている。
ただ自分より狼狽えている人がいると冷静になるんだなと解った。
俺、結構冷静。
まぁ、俺の目に映っている光景が、いつも通りってのが大きい。
日常、大事。
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「ただいまー」
「お邪魔します」
俺、帰宅。
勝手知ったるといった感じで詩織も上がってくる。
俺の幼馴染というだけでなく、俺の母親、弟とも仲が良い詩織。
玄関で靴を揃えている。
こういう所はいつも通りなんだなと感心。
出来る女だ。
俺?俺はいーんだよ!適当でっ!
「えーちゃんは、まだ帰ってないみたいね」
「だな。どっか遊びに行ってるんだろ」
詩織の言う、えーちゃんとは俺の弟である英二の事だ。
小学二年生の男子である。
俺と違い大人しく礼儀正しい少年だ。
俺も可愛がっている。
にぱっと笑った顔が可愛いのだ。
商店街のおばちゃん連中にも、とても人気がある。
嫉妬なんかしない。
例えバレンタインデーに沢山のチョコレートを貰って帰って来て、俺にニコニコしながら報告されてもだ。
く、悔しくなんかないんだからねっ!ビクンビクン。
っと、今はそれどころではなかった。
魔法陣、異世界らしい世界。
その話に入らねば。
未だ先ほどの事が本当にあった事なのかどうか……現実感がない。
おかげで狼狽えていない。
詩織もそうなのかも知れない。
「カズちゃん、相変わらず部屋汚いよー」
「うるせー、いいんだよ!どこに何があるか解っているしー」
「ダメな人のセリフだ……」
「くっ……」
俺に続いて部屋に入る詩織。
キョロキョロと見回している。
最近は来てなかったな、そういえば。
茶くらい出してやるか。
冷蔵庫から麦茶を出す。
時期的に早いがうちの流儀だ。
マグカップ二つを持って部屋に戻る。
俺のは無地灰色。
詩織のは白地にデフォルメされた猫が描かれている。
可愛いものが好きなんだよな、詩織。
まぁ、詩織専用のマグカップがあるのはご愛嬌だ。
「何してんだよ!!」
「えー、片付けを少々?気になるじゃん」
「余計な事すんな!座って茶でも飲め!」
「むぅ」
俺が部屋に戻ると詩織が四つん這いで雑誌をまとめていた。
いきなり尻を向けられたので、ちょっと動揺。
しゃがみ込んで覗き込んだりしない、オレ、シンシ。
怪しい本の在処にも近かったので、そっちでも動揺。
思わず怒鳴ってしまった。
ぷくっと頬を膨らませる詩織。
それでもベッドに座ってマグカップを手に取った。
「話をすっか」
「うん……あれってさ、異世界召喚ってやつじゃない?」
「お、詩織も知ってたか。たぶんそう」
「前、本貸してくれたじゃん」
「あー、そんな事もあったな。って返してもらったっけ?」
「返したよー」
「そっか。ならよし」
俺もベッドに座る。
駅のホーム、足元で光ったのは魔法陣で間違いないと思う。
そして異世界召喚。
どうやら詩織も知っていたらしい。
ラノベを貸した事があった。
広く浅い趣味の一環で読んだラノベだった。
「俺達は戻ってきたけど、後ろの奴らは戻って来てなかった。あいつらが勇者で主役だったんだろう……男がそう言ってたし」
「あれがハーレム主人公なのね……」
「たぶんな。如何にもって感じだった」
「勇者……魔王を倒すのかしら?」
「戦い以外では呼ばれないよなぁ……面白そうだけど戦うのはな……」
「私も嫌だなぁ……戻って来れて良かったね」
「おう。俺達は勇者召喚に巻き込まれたんだろうな。条件に合わなかったのかね、という事は女達も聖女とか賢者だったに違いないな、うん」
「へー」
ヒカルとか呼ばれていた男が勇者で間違いなかろう。
あの男が勘違いで叫んだだけとは思えない。
その召喚に俺達が巻き込まれた。
たぶんそんな感じ。
勇者だけでなくハーレム要員達もハイスペックだったんだろう。
だから戻ってこなかったに違いない。
俺の勝手な思い込みだけどな!
そういう意味では詩織も戻ってこなそうだがなぁ……一緒に戻ってこれて良かったぜ!
幼馴染がハーレム要員にされるとか考えたら、もやもやする。
俺、詩織の事好きなのかね?
まぁ、嫌いではない事は確かだ。
うん。
今の関係は嫌いじゃない。
余り考えないようにしよう。
思わず詩織を見てしまう。
詩織は耳にかかった髪の毛をかきあげている。
整った横顔。
耳の形もいいんだなぁ……っていかんいかん。
考えちゃダメだー!
「ん?なに?」
「いや詩織も戻れなかったら勇者のハーレム要員だったんだろうなってさ」
「ちょっとー!酷い事言わないでくれるー!!」
「わりーわりー」
怒られた。
「最近のラノベだと勇者召喚に巻き込まれたモブが活躍するパターンも多い」
「そうなの?」
「俺達にもなんか力が付いてるんじゃないか?」
「えっと……えい!」
話を戻した。
そう、最近では王道の勇者が活躍するパターンは減っている。
だから期待してしまう。
こちらに戻ってきた俺達にも何らかの力があるんじゃないかと!
俺の言葉を聞いた詩織が腕を持ち上げ力こぶを作る……力って、素直か!!
でも見入ってしまった。
「特に変わってないかも」
「力っていってもなぁ」
そう言いつつも、俺も試す。
身体能力が上がっているパターンだってあるかもだ。
俺も力こぶを作る。
うん、特に変わってないね。
「腕力は上がってないか……ふぅ」
俺は息を吐き、麦茶を飲む。
バキッ!
ええ、マグカップの取っ手にひびが……。
「あー、壊しちゃったー」
「それどころじゃない!!握力が上がってるぞ!!やべー!!」
「そんな事ないでしょー、あれ?」
「取っ手が砕けてるじゃん……」
「怪力女になっちゃったー!?」
詩織が小学生みたいな言い方で俺を責める。
俺は力が上がっている事を実感した。
力こぶを作ってからの流れ……力を意識したせいだろうか?
マンションのドアノブとかは壊していない。
パッシブじゃないのかな?
いつも怪力垂れ流しだったら、生活し難そう。助かるかも。
俺が壊したマグカップ触ろうとしたとした詩織が、それを砕いた。
叫ぶ詩織。
両手で顔を抑えてムンクっぽい。
そして俺は気づいた。
「力はこれだけじゃないみたいだ……へんな力が備わってる……」
「えっ?」
「マジか!!うひょーっ!!」
「なになに?なんなのー!?」
「俺に特殊能力が付いてた!カウンターだってさ!!やばくね?詩織も何か付いてるんじゃないか!?」
自分に備わった力。
魔力とかないかと探して見たら頭の中に浮かんだ。身体能力以外の力。
特殊能力はカウンター。
思わずベッドから立ち上げってガッツポーズをしてしまった。
ついでに小躍りしてしまう俺。
俺に付いているんだ詩織に付いてないはずはない。
俺よりハイスペックだからな。
詩織に確認するように言った。
「わかんないよぅ」
「頭の辺りになんかあるだろ?」
「えっと、脳味噌とか?あ、あった!あったよ!!」
唇を突き出して不満そうに、解らないと言う詩織。
俺は頭の事を伝える。
たぶん同じだろう。
詩織がボケた。
脳味噌なら俺にもあるわい!あるよね?
うん。
詩織にも特殊能力が付いていたようだ。
嬉しそうな顔になっている。
子供みたいに、はしゃぐ詩織。
俺もこんなんだったんだろうな……。
「スリープだって!自分を中心に周りの人を眠らせるんだってー!!不眠症どんと来いだね!!」
「おー!いやまぁ、うん、ソウダネ」
詩織はたまに斜め上をいくな。
俺、返事、困る。
「異世界なら戦闘に使えるんだろうけど、こっちだとどうなんだろ?やっぱり不眠症と戦うべき?」
詩織が首を傾げている。
異世界でなら活躍するであろう特殊能力。
それに疑問を持つ詩織。
言われてみれば確かにそうかも……なにと戦えと?
世間の荒波?就職戦線?
上がったテンションが少し下がった。
これが賢者タイムか?いや違う。
動揺はしてるみたい。




