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うちの母親を交えた話し合いはすんなり終わった。
「いいんじゃない?沙織ちゃんが英二の事見てくれるんでしょ?今度菓子折りを持って挨拶にいかないとね!」
それで終わったのだ。
沙織ちゃんとは織田さんちのおばさんの事だ。
うちの母親と仲が良い。
最近は時間が合わないが、以前はよくお茶会や買い物、旅行にいっていた。
俺達を置いて……。
母親が信兄の出してきた契約書にサインと判子を押してくれた。
俺はバイトだが保険にも入れてもらえた。
残念ながらバイト代は規定があるので安い。
まぁ、社会貢献と信兄のためと割り切る。
また焼肉を奢らせようとは思っているがな!壺付けカルビ、美味しかったなぁ。
▼
「おっ!やるな!!」
「やるねぇ」
「技は拙いが動きが良いぞ!?へんな奴だな」
「才能はありそうだ」
「先が楽しみだな」
「おいっ!負けてんじゃねーぞ?次も負けたら特訓な」
「そうだそうだ!気合入れろ!」
「ひぃぃ」
えっと……土曜日なので信兄の所を見に来たんですけど……。
道場で胴着を着せられ柔道をさせられています。
筋肉ダルマさん達に囲まれています。
潤いが足りません。
浅井さんと詩織は離れた所で対峙しています。
とほほ。
柔道は学校で受け身といくつかの投げを習っただけです。
しかし身体能力に任せて勝負した所、勝てました。
新人さんらしき方達が相手ですが四勝一敗。
素人にしては十分な戦績じゃないでしょうか?
ごっつい人達が俺を褒めてくれています。
ちょっと嬉しい。
身体能力と技のアンバランスさも見抜かれています。
さすが猛者といった感じ。
そして俺に負けた新人さん達が特訓をチラつかされて顔を青くしているのが見えた。
頑張ってください。
さて次の相手はっと……あれ?みんなどこを見てるんだ?
「おいおい!あの子凄くないか?」
「あの浅井さんと渡り合ってんぞ!?」
「あの人って高校、大学と全国制覇しっぱなしだったろ!?どうなってんだあの子!」
「さっき浅井さんが柔道の基本を教えていたんだぜ……」
「ありえねぇ」
「嘘だろ!?あれも躱したぜ!!」
「防戦一方だが普通凌げないぞ……」
「斉藤も凄いが、それ以上だな」
「ああ。世の中は広いぜ」
「あんなに若いのに……しかも可愛い……」
「織田さんの妹なんだろ?紹介してもらえないかなぁ」
「お前なんぞ百年早いわ!!」
「まったくだ!一本やるか!」
「ひぇぇっ」
むさいおっさん達が見ていたのは詩織と浅井さんの方だった。
次々にあがる歓声。
ええ……俺とは比較にならないほどの賞賛。
解っていましたとも。
詩織はハイスペックだ。
文武両道。
ちょっと柔道の手ほどきを受けただけでこれだ。
浅井さんは本気ではないだろうが、浅井さんの攻撃をいなしている。
浅井さん、笑ってる?
嬉しそうだし、楽しそうだ。
あんな顔もするんだねぇ……。
そして僕は途方に暮れる。
俺も詩織と浅井さんが良く見える位置にいこっと。
体育座りで見学。
詩織の応援だ。
あ、信兄が拳を振り上げて詩織を応援している。
こんな所にいたのか……俺は眼中なかった訳ね。
これだからシスコンは……。
▼
「さすが詩織!」
「うん、凄かったわ。初めてであんなに動けるなんてね。びっくり」
「えへへー。浅井さんの教え方が良かったんですよ!」
「そう?なら良かった」
「カズちゃんも凄かったね!結構勝ってたもの!」
「そうね、大したものだわ」
「あざーっす」
「うちの人達は全員自衛出来るくらいの力はあるのよ?全国レベルの人もゴロゴロいるし。本当に凄いわ二人共」
「褒められちゃった!」
「おう。嬉しいもんだな」
「詩織ちゃんのお兄さんも強いのよ?あまり練習してないみたいだけどね」
「柔道じゃ一番にはなれそうにないから、そこそこにしておくさ」
「へー」
「信兄は詩織の上位互換だからな」
いきなり練習させられたが楽しかった。
シャワーを借り、着替えて集合し再び移動。
俺と詩織は浅井さんに褒められた。
身体能力に任せた戦いでも先を感じてもらえたらしい。
嬉しい。
かなり嬉しい。
信兄も適当にやって強いとの事。
浅井さんが言うのだから信兄もかなり強いのだろう。
筋肉筋肉してないけど体が、引き締まってるんだよなぁ。
海で見た!
「ここが俺の所だ」
「「お邪魔しまーす」」
目的地である信兄の職場に到着。
到着までの通路で何度も目礼されていた信兄。
結構偉いんだなぁと思いました。
広報三課。
普通のオフィスもこんな感じだったと思う。
テレビで見た!
「「いらっしゃい」」
「ようこそ!」
「織田さんの妹さんか……噂通り可愛いな」
「はったおされるぞ?」
俺達が挨拶をすると挨拶が返って来た。
視線も集まっている。
おじさんが一人、渋いおじさんは如何にも刑事といった風情。
若いお姉さんが二人、落ち着いた感じの人とガラの悪そうな人だ。
若いお兄さんが二人、一人は詩織を見て嬉しそうな顔だ……チャラそう。もう一人は真面目そう。
部屋にはその五人がいた。
「おう……何人か足りんな」
「出てますね」
「例の件です」
「そうか、まぁいい」
信兄が偉そうに言う。
若いが一番偉いのかも知れない。
エリート様だしな。
部屋にいた五人で全員ではないらしい。
「話の者達だ。俺の妹の詩織と、家の隣に住んでいる斉藤一樹だ、よろしくしてやってくれ」
「織田詩織です。よろしくお願いします」
「斉藤一樹です。よろしくお願いします」
信兄が俺と詩織を紹介してくれた。
話はしてあったらしい。
俺は詩織のマネをして挨拶。
何て言ったら判らんのだもの。
詩織のマネをしておけば間違いない。
「ご丁寧にありがとう。自分は佐久間直久だ。よろしくな」
「私は丹羽揚羽って言うの。よろしくね」
「私は織田課長代理の補佐をしている、林です」
「林ちゃーん、自己紹介はちゃんとしようぜー」
「ぎゃははっ!タイヘーひでぇ奴だ」
「ぐぬぬっ」
おじさんから自己紹介を返してくれ出した。
佐久間さんは短髪で日焼けした顔。
ドシッとした落ち着きを感じる経験豊富そうな刑事さんって感じだ。
その次は落ち着いた感じの女性。
丹羽さんは長い黒髪を後ろで束ねて一本にして垂らしている。
割と普通っぽい顔立ち。
不細工ではない。
体型も普通っぽいかな。
真面目そうな男性も挨拶してくれた。
林さんか。
何となく信兄に似ている。
顔は信兄の方がずっとイケメンだが、雰囲気が似ている。
補佐をしていると似るのかも知れない。
ってか、信兄が課長代理?なんか笑える。
後でからかいつつ聞こう。
その林さんが挨拶してくれた直後に騒ぎ出した二人。
男女だ。
チャラい男とガラの悪い女。
何か林さんをからかっているっぽい。
何だろう?
「……林木星です」
「ぎゃはははっ!!」
「お前笑い過ぎ!俺よりひでぇよ!?」
あぁ……林さんはキラキラネームだったらしい。
言葉の最後の方は聞き取れないくらい小さい声になっていた。
そして無表情。
なんだか怖い。
いつも名前で苦労していたのが判る。
さすがに何も言えない。
黙り込む俺。
詩織もだな。
その代わりにガラの悪い女が大笑いしている。
それにツッコむチャラい男。
彼がタイヘーって言うのだろう。
容赦ない人達である。
因みに信兄、浅井さん、佐久間さん、丹羽さん、林さんはスーツ姿だ。
「お前らも自己紹介しろ」
「おっさん、こまけーな。まぁいっか、あたしは森森羅だ。夜露死苦!!」
佐久間さんが話を進めてくれる。
信兄ではなく佐久間さんが調整役なのかもね。
ガラの悪い女性は森さん……森羅……林さんと大差ないと思ったのは内緒だ。
そしてよろしくに当て字がされていそうな物言い。
元ヤンだな、絶対。
あまり更生してない気がするけど、きっと有能なんだろう。たぶん。
赤い髪をライオンヘッドにしているワイルドな感じの女性。
目つきも鋭い。
俺の方が穏やかだな。うん。
そして黄色いパーカーを着ている。
超目立つ。
しかもゆったりとしたパーカーなのに押し上げる胸が凄い!巨乳!!
つい目がいってしまう。
隣にいる詩織から肘うち。
下はホットパンツ、足元は短めのブーツ……どんな組み合わせだ!独特な感性の持ち主らしい。
この自由さ、もしかして俺と同じでバイトか?
世界は広い。
「おれっちは平手泰平ってんだ。タイヘーって呼んでくれよな!」
「あたしもシンラでいいぞ」
「なら私はアゲハで」
「私は林でお願いします」
「ぎゃはははっ!!」
「くっ……」
チャラい男は平手さん。
コミュ力高そう。
茶髪で軽そうな男に見える。
まんまだな。
白いTシャツにジーパン、スニーカー。
ゴテゴテ飾り付けてはいないが、豊かな表情も相まって目立つ人だ。
この人もバイトかも。
俺と同じで特技がある人達なのかも知れない。
自由さが許されるだけのモノを持っているに違いない。
あれ?でも広報で役に立つ特技って事か?
ふーむ。
タイヘーと呼んでくれと言われた。
若い人達がそれに続いた。
タイヘー、シンラ、アゲハか。
そして林さんはまた笑われている。
俺は触れられないし救えない。
俺は無力だな……。
「浅井さん、詩織、カズ、座ってくれ」
「ええ」
「はーい」
「うい」
騒がしい者達を放っておく信兄。
いつもの事なのかも知れない。
そして応接用のソファーを勧められた。
信兄も座る。
佐久間さんも椅子を近くに持ってきて座った。
そうすると騒いでいた人達も佐久間さんにならって椅子を動かしだした。
佐久間さんは実行部隊の隊長さんって感じだ。
黙々と上からの指示をこなしそう。
「詩織、カズ、お前らも正式加入したと言う事で話そう」
「ん?」
「なに?」
信兄が俺と詩織の方を見て言う。
真面目モードだ。
部外者には話せないような内容かな?
たぶんそうだろう。
俺と詩織は姿勢を正す。
何となくそんな雰囲気だったんだもの。
「広報三課、これは仮の名で本当は特殊対応課って言うんだ。通称『特対』」
「広報じゃないの?」
「特殊対応課?なにに対応するんだ?」
信兄が淡々と言う。
しかし内容はそれでは済まない内容だった。
広報じゃない?
特殊対応課?
はぁ!?
俺と詩織はそのまま質問してしまう。
俺達を責めないでくれ。
無理もないと思うんだ。
「主に対応するのは霊的なモノや超能力などの摩訶不思議な犯罪だ。無論、普通の犯罪にだって対応する……まぁ便利屋とも言えるな。俺達が出れば大体の事は何とかなる!そういう試験的な部隊なのさ」
「摩訶不思議……私達みたいな呪術師や陰陽師とかですね」
「はぁ?呪術師?陰陽師?」
「摩訶不思議?えっ?」
「ちょっと前に火山が噴火って話題あっただろ?先日、周辺で飛行機が落ちたのも記憶に新しいはずだ。あれはうちの案件になった」
「あれは霊障です。私達でなくとも、ちょっとカンの良い人なら逃げ出します」
「現場に行った者の中で上司に訴え出た者が複数いたと聞いた」
「今、うちのメンバーが封印中です」
「待って待って!?」
「ちょっと時間をください」
信兄が答えてくれた。
霊的?犯罪?
疑問が疑問を呼ぶ。
そして丹羽さん……アゲハが補足してくれた。
呪術師に陰陽師だって?
予想外の情報。
しかも一気に沢山来たので俺の思考は止まった。
詩織も似たようなものだろう。
どんどん話が進むので猶予をもらう。
消化しきれない。
詩織が時間をくれと言うと信兄達の口はお茶のために動き出した。
話を整理する俺と詩織。
「ふぅ……」
「また後で聞くかも知れないけど、話をどうぞ」
「昔からある職業だ。そして今も続いている」
「ただし強都以外の呪術師、陰陽師は二流以下ですけどね」
「って自分で言うなよアゲハ。あっちの化け物なんかと比べるなって」
「例外はあります。皇居を守る人達ですね」
「ああ、あれは一流だぜ。霊的な守りの最高峰だろうぜ」
「詩織、カズ、お前らみたいな力を持った奴もいる」
俺は話の再開をお願いする。
普通にある職業って言っていいのか?
アゲハが言う強都とは昔の都だ。
そこに一流の人達が集まっていると言っている。
それに相槌を打っているのはタイヘーだ。
アゲハだけじゃなくタイヘーもその手の職だというのだろうか?
イメージに合わない。
とっても合わない。
意表を突きすぎだと思います。
そして闘京にも一流の人はいると言う。
アゲハ達ではないようだ。
皇居を霊的に守っているという。
そろそろ話に付いていけないかも。
そう思った辺りで信兄が俺や詩織みたいな力と言い出した。
超能力、異能の力。
そういったモノがあると言っている。
まぁ、俺達が持っているんだから他の人が持っている事を否定は出来ない。
「そっちは、あたしらみたいな奴な!」
「一緒にされたくないですが……そういう事です」
「おぉぉ!」
「わぁ!」
シンラ、それからじゅぴ、林さんも参加して来た。
彼らも俺達みたいな力を持っているのか!?
つい凝視してしまう。
睨み返してくるシンラ。
マジヤンキー。
どんな力を持っているというのか……気になります。
信兄が率いる『特対』は本当に特殊らしい。
アゲハ、タイヘー、シンラ、林さん。
変わった事が出来るであろう人達を見る。
はっ!?
まさか佐久間さんも!?
佐久間さんを見る。
「あー、自分は違うぞ?」
佐久間さんは普通の人らしい。
ちょっと残念、ちょっと安心。
でも俺が視線をやっただけで察してくるのは能力と言えるのではないだろうか?
人生経験の差だろうか?
うーむ。
「私も違う」
「あれ?そう言えば浅井さんは『特圧』ですよね?なんでここに?」
「ここが作られたのは最近でね。私も誘われているんだ」
「おぉ!」
「そっか!」
「霊的な犯罪者であっても、そう言う手が使える相手もいるからね」
「なるほど」
「浅井さんと一緒がいいなぁ」
浅井さんも特殊能力の持ち主ではないと言っている。
俺はそこで浅井さんがここに来た理由を聞く。
どうやら信兄が浅井さんを勧誘中だったらしい。
対人、鎮圧、武力に秀でた浅井さん。
詩織が一緒がいいと言うと前向きな返事。
「うん。詩織ちゃんがいるなら参加しようかな。そう思えて来たわ」
「参加しましょー!」
「ふふっ。そうね」
「浅井さん頼むよ。心強い」
「はい。上に伝えます」
「やったー!」
「浅井の姉御が来てくれるのか!」
「うひょーっ!燃える」
「頼もしいですね」
「これで勢力が変わる……もう名前の事は言わせない……」
詩織に押されて了承した浅井さん。
元々、考えは決まっていたのかも知れない。
詩織に続いて信兄も嬉しそう。
他の人達も喜んでいる。
浅井さんはカッコイイし強いからな。
解る。
でもあれだぞ?詩織がいるからって事だぞ?お前らに魅力を感じてなかったって事だぞ?
お前ら単純か!
あ、佐久間さんだけは解っているっぽい苦笑している。
「親睦会といこうか!奢るぞ!!」
「やったー!」
「そうこなくちゃ!!」
「さすが織田さん!」
「課長代理でしょ!」
「家内に連絡させてください」
「ふふっ」
「浅井さんと一緒!」
「焼肉がいいな……」
信兄、太っ腹!
喜ぶみんな。
一癖も二癖もありそうな人達だが、同じことで喜べる事に安心した。
霊的な力とかは既に考えていない。
頭がパンクしてしまう。
置いておくのだ。
そういう力もあるとだけ思っておこう。。
いずれ自分の目で確認出来る日も来るだろう。
理解の及ばない事は先送り。
これでいいのだ。
ともかく、ごっつぁんです!信兄!!




