第1章6話
二人は強く硬くしっかりと握手をしていた。
抱き合ったりして見たり…。まぁ男どもが抱き合う姿なんて誰も見たくはないと思うのだが、そこは…ほら…シークレットサービス的な…。シークレットサービスはなんか違う!
落ち着いてきた二人は、ラウンジの方へ向かおうとする。
警備員がそれを止めようとするが、ルール先生がそれを止め
「私の友人だ、少しぐらい構わんだろ?」
と警備員の静止を無理やり突っ切ったので、苦笑いした警備員はそのまま元の場所へと戻っていった。
「さて、伍長さん、何か飲みますか?」
「あ? んじゃぁ…コーラで…」
「コーラでいいですか?」
「ああ、こんな時間だしな…」
するとルールはウエイターに声をかけ、注文をしていた。
そしてそのまま一番奥の展望席に座る伍長たち…
「さて…改めて、久しぶりですね伍長さん」
「ああ、そうだな。元気そうじゃないか…」
「元気? ははは!一回死んだ身なのにね」
「そうか…。私は君にいろいろ聞きたいことがあるのだが…」
「なんです?」
「ああ…」
一瞬言ってもいのだろうかとためらう伍長。
「本当にルーズルートだよな…?」
「もちろん、私だよ」
「そうか…。もう一つ聞きたい。」
「? 何かね?」
「ああ…、とりあえず何があってホテルのラウンジを丸ごと貸し切れる、コレを…?」
伍長の右手はみんな大好き、金の形をしていた。
…たぶんこの世界では$じゃなくて¥の方が正しいと思うのだが…そこんとこはどうなんだろう…?
「ははは、そこが気になるんかいってツッコみたくなるよ…。そうだねぇ、今私の職業を知った方が理屈は付くんじゃないかい?」
「職業?…」
「そう」
そういい、ルール先生は懐から一つの紙切れを取り出した。まぁ言わずも知れた名刺です。
そして名刺を見た伍長は、驚いた。何故なら…
【皇宮省侍従長兼皇宮省公務執行補佐官・フェラン・C・ルーズルート】
と書かれていたのである。
「…………」
「驚いたか? それが私の今の役職だ」
驚いて声も出ない伍長にルール先生は話し始めた。自分の役職の説明と何故こうなったかの経緯。
一つ目の役職の皇宮省侍従長とは、簡潔に言えば皇居自体をお世話する役職にあたる。人ではなく物である。まあ皇帝の側近?とも考えられるそうだ。侍従長とはまあそこのお偉いさんと思ってくれれば…。
2つ目の役職の皇宮省公務執行補佐官とは、こちらは本来存在しなかった役職だが、皇帝陛下の要望で作られた役職だそうだ。仕事内容は皇帝の権限がある、『特定外交』『軍事』『惑統連安保理評』『内閣信任』の4つの権限を執行する際、それを補佐する役割。つまりすっげぇ重要な人。
それを聞いた伍長はルールの話を遮って質問した。
「ちょちょちょまて! つまりあれか? お前がここにいる理由ってまさか…」
「公務だぞ…?」
「ってことは…」
「皇帝陛下もいらっしゃる」
伍長は絶句した。ってかお前ら絶句多いなぁ!
「マジで!?」と驚く伍長。
「マジです」すっごく冷静に答えるルール。
「冗談抜き」と重ねるごとに驚きから絶句へと変わっていく伍長。
「YES」英語で答えるルール。
「Are you lying to me?(私に嘘ついているの?)」となぜか英語で聞く伍長。
「What are you going to do with lying?(嘘をついてどうするつもりなんですか?)」英語で返すルール
「Aufgeben und ehrlich sein Nareyo(諦めて正直になれよ)」と母国語で話す伍長。
「いやだから本当ですって!」
そこはドイツ語ちゃうんかぁい! と心の中で大いにツッコんだ伍長。
「ってことは何? 今ここに皇帝陛下がいらっしゃって、そのお世話に?」
「そういう事」
「はぁ~。とりあえずここにいる理由は分かった。だが何故そんな役職に?」
「それさっき話そうとしていたんだが…」
まぁいいかと思いルーズルートはこうなった経緯について話し始めた。
「10年前だったかな。ほら丁度その時私が心臓発作で亡くなったでしょ?」
「ああ、そうだったな」
と腕を組み頷きながら話を聞く伍長さん
その悲報をドイツで聞いた時伍長は崩れ落ちたそうだ…。椅子から…
「で、気が付いたら皇帝陛下の下で今の役職についていたわけ」
「…。終わりか!?」
「そうですね」
「えっ? じゃあ何故皇帝陛下の下で働くことになったかは…」
「わからないんですよね…」
そううっすらと笑いながら答える先生。
「わからないっておま…」
「さて、私のことは話しました。して伍長さんは…い何故この世界に?」
「いや、それがだな…」
伍長が答えようとしたその刹那!
ドゴォォォォォォォーーーーーーーーーン
爆音があたりを轟かせ、ホテルの建物自体が激しく振動する。
窓ガラスはあたりに飛び散らせ、照明や固定していない食器は地面へと雪崩のように落ちていた。
「なんだ!?」
二人はあたりを見渡す。
窓ガラスは2重耐震性の窓ガラスなので外側までの貫通は避けたが、内側はもう悲惨な状態だった。
「爆発でしょうか?」
「とりあえず逃げた方が…」
だが、
バンバンバン
照明が全て落ち、あたりは一瞬にして真っ暗になった。
そして…
ジリリリリリリリ
非常ベルが鳴り響いた。
「閣下! お逃げください!」
先ほど伍長を制止しようとした警備員が駆けつけてくる。
「わかった! だが君たちは避難誘導を始めてくれ!」
「わ、わかりました」
実に物分かりが良い警備員である。すぐさま非常歓談を降り避難誘導へと向かった。
「おい、ルール! 私は首相と爺ちゃんを見に行ってくる。お前は先に避難しろ!」
「わ、わかった。気を付けて」
伍長はルールの言葉を聞く余裕もなく、うっすら緑色に光る非常階段を目指して走り出した。
歳をとったその体に鞭を打ちながら階段を駆け下り、18階の1812号室の扉を蹴破った。
「ご、伍長! 何があった?!」
「わからん、だがまずい状態なのは確かだ! お前らも避難しろ!」
「りょ、了解。閣下、大丈夫ですか?」
首相!はおじいちゃんを肩に担ぎそのまま部屋を去っていった。
「さて…と、私も避難するか」
とりあえず持っていけるそんなにない所持品を持ち伍長は急いで階段を駆け下り外へと避難した。