理恵・勝負を挑まれる…が③速人が吠えた訳
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
亮二と一緒に自宅へ戻った速人は思いっきり後悔していた。
好きな女の子が馬鹿にされてカッとなって買った喧嘩。どう考えても勝ち目がない上に、愛車を奪われればその好きな女の子『白藤理恵』とバイク通学する事が出来なくなってしまう。
「まったく…珍しく興奮しやがって…」
「好きな娘が馬鹿にされるのは我慢できないよ」
じつは速人、ゴリラで元気に登校する理恵と近付きたくてモンキーを買ったのだ。
「で?どうすんのよ?勝ち目はね~ぞ」
「どうしよう?」
店選びで失敗したモンキーは大島に習いながら必死で直した。その結果、速人は理恵と一緒に遊ぶようになり、バイクの事も少しだけ詳しくなった。勉強代は随分かかってしまったが。恋のキューピッドでもあるモンキーを失うことになるかもしれない。
「どうしようも何も、アレは?白藤が大村にやったあの作戦」
「僕はそれほど葛城さんと親しくは無いよ。メルアドも知らないし」
「アレは?お前が組んだクロスミッションのエンジンは?」
「アレは今のエンジンのミッション違い。加速は良いけど速くないよ」
クロスミッションは加速をスムーズにする為の物。パワーが一緒なら最高速は変わらない。
「おっさんに相談するか?ぶん殴られるかもしれんけど」
「殴られても良いけどグリグリは避けたいよ…」
中指を立てた拳でこめかみをグリグリ。非常に嫌なお仕置きである。
「とにかく、明日はおっさんの店に行こう」
「うん」
速人は翌日、理恵と亮二、そして綾と一緒に大島の店へ行く事にした。。
「バイクを取られたら自転車通学だ。理恵ちゃんに付いて行けるかな…」
「まぁアレや。うん、バイクが無くなったら私のゴリちゃんで引っ張るから」
「競輪じゃあるまいし…無理に決まってるでしょ?」
「綾の言う通りやな」
困難時でも理恵は楽観的である。
「お腹が空いてるから暗い考えになるんや。おっちゃんの店に行こ」
「うん…一緒にグリグリされようね」
「それは嫌」
「そこは嘘でも『うん』って言えよな」
◆ ◆ ◆ ◆
こめかみをグリグリされるのを覚悟していた速人だったが、大島からは何もされなかった。されたと言えば蒸しパンと飲み物を出されたくらいだろう。理恵以外の3人はコーヒー、理恵はココア。大島は番茶を飲みながらいろいろと話す。
「で、おっちゃん。何かアイデアは無い?」
「どんな時でも安全運転・法令尊守。そうすれば道は開ける」
「あの田屋って奴、相当しつこい奴みたいよ」
「親がNTT?商売やってるからお金持ちやって聞いた」
「NTTは電話。田屋の親はNPOの理事か何か。動物愛護だったかな?」
動物愛護やからモンキーを保護するのかと思った大島だったが、さすがにこの場でそんな冗談は言う気になれなかった。
「モンキーを取られたら寂しいな」
「速人が頑張って直したお猿さんなのに、どうしてこんな事になったのかな」
(お前…気付けよ)
(理恵って鈍感ね)
「まぁ、アレや。免許だけは汚さんようにな」
50㏄の排気量差のあるレーサーレプリカに勝つ方法は聞けなかった。
『免許だけは汚さんようにな』
だが、不思議とその言葉だけが4人の頭から離れなかった。