理恵・勝負を挑まれる…が②秘密のオペレーション
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
速人に喧嘩を売った田屋は以前リツコにウインカーが点いていない事を注意された生徒だった。修理する店が無く、修理する事も出来ないと言った田屋にリツコは大島サイクルの場所を教え、中に修理に来たら引き受ける様に頼んだ。数日後、そのバイクは中が直していた。
「地図を書いて渡したのに、その生徒、直さずに『俺は金持ち』って買い換えちゃったのよ」
「それはリツコちゃんに対してもバイクに対してもあんまりかな?」
バイクはバイク回収業者に引き取られて、巡り巡って中の店へ来た。
結局、今は大島サイクルで中古車として並んでいるのだが、晶は今都らしいなと思った。
「それに、私の事を『オバサン』って言った」
「それは許せないよね」
アラサーと呼ばれる30歳前後の女性は自分がオバサンになりつつあるのを抗うのに必死だ。
『もう少しだけ、あと少しだけで良い。もう少しだけお姉さんでいたい』
そう思っている微妙なお年頃の女性に対してオバサン呼ばわりは禁忌である。
「私も何かにつけて『今都ですから』っていう奴らにクレームつけられてるから」
晶はスカートを履いて通勤してクレーム。年末の取り締まりでクレーム。
今都の住民から理不尽なクレームをつけられては上司に注意されていた。
その前には今都の金持ち団地の老人に追突されて愛車を失っている。
高嶋へ来て以来、晶は今都にムカついていた。
「私怨で仕事をするのは良くないけれどね」
「仕事は仕事でもあっちの『仕事』ね」
2人の頭の中にトランペットであの曲が響いた。そう、あの曲である。
「♪~♪♪~♪…歌詞が出て来ない」
「歌詞なんか無いよ…」※ある
最初は大島の今都嫌いはどうかと思っていたが、今では2人とも気持ちがわかる。
「こちらはミニパトの婦警さんを丸め込むね」
「こっちは生徒指導と組むから」
「どうやったら協力してくれるかな~?」
「良いこと教えてあげるね」
◆ ◆ ◆ ◆
「ちょと手伝って欲しい事が有るんだけどな」
「はわわわわ…あ…晶様…」
翌日、晶はリツコに習った必殺技の『壁ドン』のおかげで婦警さんの協力を得ることが出来た。
「『壁ドン』からの『笑顔』。それで駄目なら『顎クイ』よ♪」
「『顎クイ』からは?どうするのよ…」
冗談かと思ってやってみたのだが、全員快く協力してくれることになった。何処までもイケメンキャラ扱いされている晶であった。ただし、独身女性限定。既婚者相手でやると問題になる。その辺りは注意した。
リツコは第二教務員室で生徒指導担当者の協力を仰いでいた。
「竹原先生♡協力してほしいゾ☆」
「よい歳こいて何言ってやがられるんですか、先輩」
「こいつには通用しないか…」
「しません。先輩の歳も酒の強さも知ってます」
チッと舌打ちしたリツコ。昔からの知り合いには童顔が通用しない。
「竹ちゃんは彼女っていたっけ?」
「磯部先輩。竹ちゃんは止めてください。イメージがあるんで」
この強面教師の竹原はリツコの2年後輩。大学時代のバイトで知り合って以来リツコに頭が上がらない。大学時代、東京でホームシックになった竹原は同郷のリツコにしょっちゅう相談しては泣いていた。それなのに恋愛関係に発展しなかったのはリツコが大酒のみだったから。竹原は酒が殆ど呑めず、どちらかと言えば甘い物好きなのだ。ボクシングをやっていた頃はそれで悩まされたりしていた。
「うるさい。甘い物好きってばらすわよ」
「止めてください。マジでイメージが崩れちゃいます」
生徒指導担当で生徒に隙を見せるのは御法度。
「で、居るのか居ないのか言いなさい」
「居ませんよ。この顔ですよ。顔見ただけで逃げますよ」
哀しいかな虎の眼を持った男・竹原は顔も怖い。無論、女子が寄って来ることも無い。実際に話すと気使いの出来る優しい男なのだが、生まれ持った顔のおかげで彼女が出来ない。180センチオーバーの長身と学生時代から鍛えた体も相まって女子生徒にも怖がられる。散々な目に会って来た。
「女の子を紹介する。ちょっと手伝って欲しいんだけどなぁ」
「大酒のみの人は嫌ですよ。僕は呑めない人ですから」
「甘い物好きで、可愛い物好きな背の高い女の子を紹介しよう」
「………用件を聞こう…」
女性を紹介してもらえる。しかも同じ目線で話を出来るならと竹原は飛びついた。
教師である前に竹原は1人の男であった。
一方、大島は大島で出来るだけの事をしようと必死だった。
速人がバイクを乗らなくなると、何故か悪い事が起こる気がしたのだ。それは何かは解らないが、速人が細かな部品を注文したりオイル交換に来なくなるのは寂しい。速人に喧嘩を売ったのは今都の自称金持ち。金と言えばあの男である。
「金一郎。KTMのバイクを買った御仁について調べてくれ」
「ヘイ兄貴!」
「今都の田屋という名字や。ついでに…よろしく頼む」
「わかりました」
速人が知らない所で様々な人間が動いていた。