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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 11月
69/73

理恵・気が付く

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

 速人の背中を見ながら真旭を抜けて安曇河町へ。こどもの国前の信号がチェックポイント。見物人の中に亮二と綾ちゃんの姿が見えた。


(リア充爆発しろ……)


 信号を右折して少し走ると一旦停止がある。せっかくスピードに乗ったのにまたやり直しだ。私のゴリラちゃんはギヤの繋がりが悪い。速人も同じエンジンのはずなのにポンポンと加速していくのは何でだろう……。


 ポペペペペペ……カシャン…ポぺペペペペぺぺぺぺ……


 一旦停止した速人が再び走りだした。停まる前にペダルを《《爪先で踏みこんで》》ギヤをニュートラルに入れるのが見えた。私のゴリラちゃんは止まってからじゃないとニュートラルに出来ないのに何で? 4速から3・2・1速と踵でシフトダウンするか、完全に止まってからニュートラルに入れて1速に入れ直すかのどちらかなのに。


 ポペペ……カシャン…ポペペペペペ……カシャン……ポペペペペペペペ……


(絶対におかしい。スタートの伸びが違う)


「エンジンの排気量が一緒やったら、モンキーとゴリラは出せるトップスピードは一緒や」っておっちゃんが言ってた。前と後ろのギヤは(スプロケットの事)私も速人も一緒なのは速人がモンキーを組み立ててるのを見ていたから知ってる。でもスピードが出るまでの時間が違う。あれからボアアップはしていないはず。もっと大きいエンジンにしたならもっとスピードが伸びるはず。


(じゃあ、中のギヤが違うんかな……ハッ!)


 おっちゃんが「加速を良くするのにクロスミッションに組み換えやなぁ」って言ってた。


(あの時に作ってた奴や)


 少し前だ。速人がおっちゃんの店にオークションで買った物を預けてた事が有る。速人はモンキーのミッションが使えるカブのクランクケースが出てたから買ったって言ってた。もしかするとあの時に買った部品を使って作ってたエンジンを載せたんかなぁ。そんな事までして私に勝ちたいって何でやろう。もしかすると清らかな私の体を狙っているのだろうか……私を押さえつけて無理矢理事に及ぶつもりなのかなぁ……そりゃ無いか、ペッタンコやもん。いや、凹凸はある。微妙にやけど。


(もしかして、速人は私のゴリラちゃんを狙ってるんかなぁ?)


 堤防を降りて蒼柳へ向かう直線道路の遥か向こうに速人の背中が見える。やっぱり発進からの加速は勝てない。頑張ってアクセルを捻ってもスピードでも勝てない。私のゴリラちゃんでは速人のモンキーに追いつけない。


(ずっと一緒やと思ってたのに、何で?)


 景色が歪む。涙が頬を伝ってシールドの外に出た途端に後ろへ流れる。


(ずっと仲良しやと思ってたのに、何で?)


 蒼柳あおやぎの集落へ入ると狭い道が多い。4速から3速へギヤを変えて見通しの悪い路地を走る。速人の姿はもう見えない。小学校の前を通り過ぎて信号を右折。郵便局・図書館の前を通り過ぎると道の駅安曇河だ。制服の高校生が集まっているのが見えた。速人は先にゴールしたみたい。


(負けた……ゴリラちゃん、負けちゃったよ)


 速人に遅れる事約1分。私はゴール地点の道の駅安曇河駐車場へ滑り込んだ。ゴリラちゃんのスタンドを降ろしてエンジンを止めると速人が話しかけてきた。勝利宣言だろうか。


「さてと、じゃあ言う事を聞いてもらおうかな?」


 悔しい。そして、速人が何を考えているのか分からない。怖い。


「負けた。何でも言う事を聞く……でも……でも……ヒッ…グシュッ…」


 周りで「おいおい、湖岸のお猿が泣いてしもたぞ」とか「あ~あ、泣かした」なんて声が聞こえるけどどうでも良い。鼻水が垂れているのも涙が出てグジュグジュになっているのも分かってる。そんなのはどうでも良い。


「お願い……ゴリラちゃんを……取らないで……ふえぇぇぇ……」


 それだけを言うのが精一杯だった。



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