理恵・当てが外れる
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
速人と競走する事になった私は最終手段というか、万が一のことを考えて葛城さんにも相談した。
「仕事中は手加減しないよ。スピード違反は捕まえるからね」
「私のゴリちゃんは70km/h出~へんもん」
「じゃあスピード違反は無いね」
「速人がビュンビュン走ってたら停めてな」
「うん、『ビュンビュン走ってたら』ね」
そんなメールのやり取りをして挑んだ速人との勝負。
―――――風車村跡を過ぎて約1km―――――
ミラーに白バイの姿が見えた。葛城さんだ。ヘルメット越しに見てもイケメンだと思う。もうバイクに乗る姿は白馬に跨った王子様か騎士だ。絶対に暴れん坊将軍じゃないと思う。
(葛城さん、やっぱりイケメン♡)※葛城は女性です
葛城さんは左手で軽く合図をして私を追い抜いた。少し距離を置いて速人を追尾。多分スピードを測ってるんやと思う。しばらく一緒に走ってたけど葛城さんが速人を停めようとする様子が無い。
(あり? 『ビュンビュン走ってたら停める』って言ってたのに、何で?)
◆ ◆
速人の数メートル後方で葛城は計測メーターを見ていた。速度は67㎞/hをキープ。スピードが出過ぎと言えば出過ぎだが、メーター誤差の範囲と言えば範囲である。停めるほどでも無い。「普通に走ってたのに何で?」なんて言われてはこちらが悪者だ。
(本田君を停めるとなれば、同じスピードで走ってる理恵ちゃんも停めなきゃだね)
ヒュゥゥゥゥ……
葛城はスロットルを緩めて理恵の後についた。速度は同じく67㎞/h。スロットル全開でこのスピードになるのは偶然か、それとも大島の狙い通りなのかは乗っている理恵たちにも分かっていない。
(う~ん、速人君に追いつこうとこれ以上出したら停めるけどねぇ)
どう停めたものか考えた葛城だったが、停める理由は思いつかなかった。2台とも黄色ナンバーだから原付二種登録済み。制限速度は時速60㎞。現在出ている速度はメーターの誤差の範囲内。車体はほぼノーマルだから整備不良でも無い。マフラーもきちんと騒音規制対応品なのも知っている。実際、2人の乗るモンキー・ゴリラからは長閑な排気音しか聞こえていない。
(停める理由なし。理恵ちゃんゴメンね~)
これ以上付いて行っても無駄。そう判断した葛城は左手を軽く振って脇道へ入った。
◆ ◆
(む~、この手も使えんのや。速人め、やるな)
ミラー越しに手を振る葛城を見た理恵は自分の作戦が次々と封じられている事に気付き始めた。自身の軽さを生かした加速勝負で負け、スピードを出して先行する相手を葛城に停めてもらう作戦もダメ。
(そっか、速人も私も精一杯走ったスピードは変わらへんのや)
精一杯走って速度制限ギリギリ。そうなれば加速勝負。だが、何故か体重が軽いはずの自分より重い速人の方が速い。1速から2速へシフトチェンジでミスをしたのはわかっているけど、その後の加速の繋がりが全然違う。
(私のゴリちゃんは1速でコロン、2速でコロンコロン。3速は引っ張って4速で走り続ける。速人のモンキーは1速で伸びて2・3・4とポンポン加速していく)
―――――ここから扇子の街・安曇河町―――――
真旭を走り抜けて安曇河町と書かれた看板以降はガラリと景色が変わる。高嶋市南部地域の湖周道路は、どらかと言えば裏通りだ。今都・蒔野が湖周道路をメインとしているのに対して安曇河以降は国道161号バイパスをメインとした街づくりがされているからだ。
(信号を利用して……速人もバイク通学やしなぁ)
残る手段は対大村戦で使った信号のパターンを読んだ無停止走行だが、同じ様にバイク通学をしている速人相手では通じるかどうかはわからない。
(アカン。負ける)
琵琶湖の畔を2台の小さなバイクが駆け抜けて行く。




