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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 11月
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理恵・孤立する

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

 3速・4速とギヤチェンジするたびに離れて行く見慣れた背中。私は愛車のゴリラちゃんを必死になって走らせた。なのにギヤチェンジするたびに離される。


(何でこんな事になったんやろう)


 いつもの様にバイクに乗り、いつもの様に馬鹿話をして、そしていつも仲良し。そんな私たちのちょっとした言い合いが発端だったと思う。


(綾ちゃんが要らん事を言うからや)


 ―――――約1か月前―――――


「あんた達ってそっくりなちっこいバイクだけど、どっちが速いの?」


 普段の会話だったと思う。そう、いつもの何て事の無い会話。いつもなら「同じだよ~」とでも言う速人が突っ張ったからだ。


「僕のモンキーの方が速い。当たりエンジンだからね」

「私のゴリちゃんは『ポート研磨済み』やも~ん」


 冷静に考えればエンジンは同じ。ギヤも一緒。同じバイクなんだから体重が軽い私の方がスピードが出るのが早いはず。軽いんだから速く走る事が出来るはず。いつもの速人なら絶対にそう言うはずだ。だけどあの時の速人は違った。


「僕のモンキーは当たりエンジンで《《手入れをしているから》》速い」

「私のゴリちゃんは速人のモンキーよりパワーが出てたもん!」


「いや、慣らし運転が終わってるから今は違うね」

「それでも私とゴリちゃんの方が軽いもん」


この辺りでお互いに納める事が出来たなら、こんな事になっていなかったと思う。


「9リットルタンクと大飯喰らいなお猿を乗せてるんだから変わらないよ!」

「にゃんだと~!何ちゅう事を言うんや!言うて良い事と悪い事があるで!」


 睨みつける私を見下ろしてくる速人の目線が余計にムカついた。でも、どうして亮二と綾ちゃんは止めてくれなかったんだろう。私は仲良しのままで高校生活を過ごしたいのに……。


「言い合っても何もわからんだろう?走ってみたら?」


 そう、亮二があんな事を言ったから走ってるんだ。おっちゃんが「道でレースなんか許さん」って怒るのに。ばれたら拳骨でこめかみをグリグリされるのに。普段の冷静な私たちだったら公道レースなんか絶対にしないのに。


「絶対に私が勝つもん!私が負けたら好きにさせたる!」

「上等だ、勝負は1か月後。舞台すてーじは湖岸道路から安曇河の道の駅」


『売り言葉に買い言葉』ってこんな事なんやろうなぁって思った。


「良いよ。その代わり私が勝ったら今後のオヤツ代は速人が全部払ってや!」

「わかった。じゃあ勝負の前に一緒に居ない方が良いね、さようなら」


「何が『さようなら』じゃ~!キ~ッ!」


 速人の奴、あれから今日までの1カ月近く、全く私に近付かなかった。おかげで勉強を教われなかった。テストの結果は赤点こそ無かったけど、散々な点数だったよ。お母さんに滅茶苦茶叱られたし、私をかばったお父さんもお母さんに叱られた。私はお小遣いを減らされてオヤツ代が減ってしまった。お父さんも巻き添えを食ってお小遣いを減らされて晩酌が停止になった。


「なあ綾ちゃん、何で速人はあんなに突っ張るんかなぁ?私、何か悪い事した?」

「自分のペッタンコの胸に手を当てて考えなさい」


 誰が『ペッタンコ』だ。ちょっとだけやけど有るわ。微妙に。


「なあ亮二、何か速人に勝つ知恵って無い?」

「知らんよ」


孤独だ。2人とも全く頼りにならない。


「2人とも、協力してくれる?」


精一杯可愛くお願いしたつもりだけど、2人とも真剣に聞いてくれない。


「どっちかの味方なんてなれない」

「綾には逆らえん、すまん」


 (うう……2人とも薄情だ。リア充爆発しろ)


 どうしようもないから絵里と美紀ちゃんにも相談したんだけど……。


「理恵ちゃんが謝れば良いんやで~」

「とっとと謝って来なさいよ」


 それが出来ないから困ってるのに。謝ろうと思って仲直りしようと近づこうにも速人は向こうに行っちゃうし、目も合わせてくれない。成績もテンションも駄々下がり。このままだと速人との勝負の前に、成績との戦いに負けそうな気がする。よくテレビで『絶対に負けられない戦いがある』なんて言ってるけど、じゃあ負けてOKな戦いって何って気がする。


(クラスメイトに相談した私がアホやった)


 ―――――真旭町―――――


 今都を離れ、真旭町へ突入。速人の背中が離れるのが止まった。スロットルは全開。メーターは70㎞/hには届かない。出るスピードは変わらないみたいだ。



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