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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 10月 大島と磯部 結婚する
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大島夫妻・新婚旅行に出かける。

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する全ての人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

 いよいよ新婚旅行。北海道へツーリング予定だったのが災害により予定変更だ。オーストラリア旅行になってしまったのだが、リツコさんは嬉しそうだ。お義母さんに挨拶をしなければと思っていたので丁度良いと言えば丁度良い。


あたる兄ちゃん、迎えに来たで~!」


 金一郎はピカピカのベンツで迎えに来てくれた。運転手はまささん。奥さんと一緒に留守中の我が家へ泊り込んで留守番をしてくれる予定だ。


「中兄ちゃん、リツコ姐さん、準備はよろしいですか?」

「準備OK!えっと、政さんよろしくお願いします」

「精一杯務めさせていただきます」


 リツコさんが政さんにペコリと頭を下げていたら、ご近所の奥様方がワラワラと出て来た。


「中ちゃん、頑張れや!最後までシャキッとさせるんやで!」

(何をシャキッと……あ、ナニのことか)


 奥様方に挨拶をしている間に金一郎と政さんがスーツケースを車に積んでくれた。旅行中は店の事を忘れてリツコさんと楽しもうと思う。


「では、行ってきます」

「「「「行ってらっしゃ~い!」」」」


     ◆     ◆     ◆

 

 ここは滋賀県高嶋市。市の南側にある安曇河町は琵琶湖の西側にある小さな田舎町だ。電車は1時間に2本。路線バスも少ない。その割に面積だけは広くて移動が大変な街だ。何?『自転車に乗れば良い』だって? それも手段の一つだ。でもなぁ、緩やかな坂が多くて辛いんだよなぁ。電動アシスト自転車のバッテリーもすぐ無くなる。脚力が鍛えられるから良いけどね。え?『クルマに乗れば良い』って? うん、だから大人は車に乗ってる。じゃあここで問題だ。自転車で移動できる以上の距離を自動車を運転できない高校生が、毎日移動しなければいけない場合はどうすれば良いかな?


 そう、バイクに乗れば良い。幸いな事にこの街には小型バイクでの通学が許されている高校がある。もしもこの学校へ通う事になったなら免許取得の申請を出して堂々とバイクに乗れば良い。


 免許が取れたなら次はバイクだ。何に乗りたい?どんな風に使う?車種に詳しくなければ使い方を店主に伝えれば良い。そんな相談に乗ってくれるバイク店が安曇河にある。安曇河にある藤樹商店街へ行ってごらん。小さなバイク店がある。店主のオッサンに相談してみよう。今は新婚旅行中で留守だが、帰って来たらこう言いながら聞いてくるはずだ。


「で、予算は? どんなふうに使う? 条件を聞こうか……」










      ◆     ◆     ◆



 








大島夫妻がオーストラリアへ旅立った翌日からは車輪の会(ホイラーズクラブ)の御隠居が交代で店番をする事になった。店番と言っても作業するのはパンク修理やちょっとしたメンテナンス程度で、本格的な修理の場合は自分の息子や娘の店へ行くようにと案内している。ご近所やほとんどの常連はその辺りの事情を知っているので特に手の掛かる修理を頼む事は無かったのだが、どうしても何とかして欲しいと言って来る者も居た。


「ねぇお爺ちゃん。私のゴリラちゃんを速くしてくれないかなぁ♡」


 甘えまくっているのは『湖岸のお猿』こと理恵である。1年生の麗・瑞樹・三葉・澄香でさえ事情を聞いて簡単な整備は速人に教わりながら自分でやっている状態なのに、留守番をしている御隠居に無理難題を吹っかける困った奴である。


「そやからな、大島君がらん間は腰が痛うなる仕事はせんのよ」

「そこを何とか!」


 御隠居連中は大島から『小猿みたいなのが来たらアカンって言っといて』と言われているので何もしないのだが、そんな事を理恵が知るはずもない。


「そやからアカンって言うてるやろ!大島君が帰って来てからにしなさい!」


 別の御隠居なら何とかお願いを聞いてくれるかもと、この一週間足繁く大島サイクルへ通った理恵だったが、とんだ徒労に終わった。


「うう……1週間無駄にしてしもた」


 理恵はシュンとして家路についた。最近の理恵は凹む事だらけだ。速人に勉強を教わる事が出来ずに中間テストは散々な結果だった。おかげで母には叱られ、父には心配され、罰としてオヤツ代を半分にされてしまった。おかげで普段なら10個食べていた大判焼きを5個しか食べる事が出来ない。仕方が無いので噛み応えのあるスルメや煮干しを齧っているが、顎が疲れて仕方がない。体から出汁の匂いがするのだろうか、妙に猫になつかれる。


(速人に勝って『オヤツ代は要らんから仲直りして』って言おうと思ってたのに)


 誰にも頼る事が出来ないまま、理恵は打つ手が無く勝負の日を迎えた。


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