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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 10月 大島と磯部 結婚する
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結婚式前夜

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設その他は全て架空の存在です。

実在する全てと関係ありません。

 しばらくの間、店は開けるが俺は休むので店の中を片付けた。御隠居たちが店番をしてくれるので工具や部品を見える所に置いて、ややこしいものは倉庫へ。俺が居ない間はオイル交換とパンク修理位しか出来ない。万が一事故で引き取る場合も車輪の会会員の店に行くよう手配した。ご近所や常連には俺が居ないのは連絡済みだ。


(10日以上店を空けるてなもん何年ぶりかなぁ)


 店を始めてから旅行なんてしていなかった。1人きりになって放浪の旅から帰って10年以上の間、仕事がらみと商店街の旅行以外で滋賀から出るのは久しぶりだと思う。


「さて、明日はいよいよか」


 コンプレッサーのドレンを開けても水はそれ程出ない。季節は秋。台風シーズンも一段落してカラッとした秋晴れの日が続く。


プルルル~♪


 妙な時間に携帯が鳴った。三矢社長からだ。何の用だろう。


「はい、大島です」

『あ、大島君、ちょっと面白い手紙を見つけてな、こっちで勝手に……』


     ◆     ◆    ◆


 ヴロロロロ……プスッ……


 リツコさんが帰って来たのでお出迎え。彼女も職場を空けるのでこの数日間は段取りをしたりで忙しかったようだ。


「ただいま」

「おかえり。お風呂にする?それともご飯?」


 いつもの様に聞いたらリツコさんが伸びをした。


「?」

「抱っこしてくださ~い!」


 この数日はお互いに忙しくてバタバタだったからだろう。布団に入っても寝るだけだった。寝る前の話も出来なかった。とにかく抱っこして欲しいらしい。


「じゃあ靴脱いで、抱っこするで」

「は~い」


猫を抱える様にリツコさんを持ち上げてっと。


「せ~のっ……ハイッ」

「にゃう~疲れたよ~。お腹空いた~先にご飯~」


 抱きついて来たリツコさんを担いだまま居間へ。


「服を着替えておいで」

「はぁい♡」


彼女を降ろしてから再び夕食の準備を続ける。部屋着に着替えたリツコさんが戻ってきたら夕食だ。明日は大事な式なのでお酒は無し。一般的に結婚式前夜は家族と過ごすものらしいが、お互いに両親が遠い所に居るのでそれも無し。


「結局お母さんは何ともならんから挨拶に行くのは旅行でやな。事後承諾になるけんど大丈夫なん?こんなオッサンが息子になるってお義母さんは嫌がらへん?」


 普通なら結納や顔合わせってもんがあるけれど、やっぱり俺達は特殊だと思う。式の段取りで両親が出てくる場面が全く無いのは珍しいと思う。


「母さんはいいのよ。『アンタを貰ってくれるだけで感謝』なんて言ってるんだから。『私が31歳の頃、リツコ、あなた小学生だったのよ?』とか言われたのよ」


 お義母さんは今の基準で言えば早婚だったと思う。でも当時はそれが普通だった。リツコさんだって今の基準では遅い方ではない。多分。


「時代が違うから仕方ないで」

「でしょ?でもね、中さんの事は『悪くない』って褒めてた」


 職人の間で『悪くない』というのは褒め言葉だ。良いと褒めてしまうと調子に乗ってしまって仕事が荒れるからだ……と先代が言っていた。


「それにね、中さんって似てるんだって」

「似てる?誰に?」


「私のお父さんに……」


     ◆     ◆     ◆     ◆


 リツコと中が穏やかな時間を送っていた頃、安曇河から約10km離れた今都では何やら悪さを企む輩が集まっていた。


「あの保健室のババァが結婚だってよ。ムカつくな」


 24時間営業のハンバーガーショップでポテトを齧りながら踏ん反り返っているのは先日バイク通学の申請を蹴られた田谷・落合・大村の3人組とそして先日バイク点検で竹原を殴って停学になった落合百億だ。揃いも揃ってろくでなし。『類は友を呼ぶ』の典型的パターンである。


「あのババァの旦那がバイク屋なんだってよ。ゲヴォ(蔑称)の癖によっ!」

「名前が大島になったっつってたから大島ってバイク屋だよな」

「安曇河にそんな店あったっけ」


 落合百億は停学になってから市内をうろついていた時に大島サイクルに訪れた事が有る。


「保険室のオバサンは知らん。でも、安曇河の大島サイクルなら行った事が有る」


 オイル交換を無料でさせてやると言ったら思いっ切り叱られたうえで追い返されてムカついた。今都市の人間のバイクを触らせてやろうと言ったのに断った変な店。せっかく格上な今都市の住民が注意してやったのに土下座も感謝をしない嫌なオッサンが居た店だったから良く覚えている。そもそも整備の料金を先払いしろなんて言う根性が気に喰わない。まるで聖なる今都市の人間を信用していないみたいではないか。そんな馬鹿者には正義の鉄槌が必要だ。


「明日が結婚式だってよ。ぶっ壊しに行かねぇ?」

「いいね!行こう行こう!」

「どうせ安曇河の××××(差別用語)じゃ!私たちは今都民やもん!何してもOK!」

「何か言われても今都なんだから許されるもんね~」


 4人は大島の結婚式の会場が何処になるかを調べた。


「大島サイクルは藤樹商店街の店。ババァは高嶋町出身だ。その繋がりだと式場は寿光苑。チャペルが有るのはココだけぎゃ」


 悲しいかな田舎街なので式場はあっけなく特定されてしまった。


「じゃあ、俺は木刀と竹刀を持って行く!」

「俺も竹刀!顔が割れない様に面も持って行く」

「叩かれたら痛いから防具も用意して行こう!」

「安曇河のゲヴォをぶち壊せっ!」


「「「「「げヴぉっふぉ~い~(士気の高揚を表す)!」」」」


 良からぬ計画が進行していた事を中とリツコは知る由も無かった。


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