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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 10月 大島と磯部 結婚する
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台風の影響

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

 我が家は古いながらもシャッターと雨戸は完備している。昔の職人がやたら滅多ら頑丈に作った過剰品質な柱を使った家で、耐震性を調べた所、震度7でも大きな被害は無いだろうと結果が出たほどだ。


(先代が言ってたなぁ『フレームが肝心』って)


 今回の台風では倉庫の外壁が多少傷んだ程度で、DIY好きな俺はホームセンターで材料を買ってきて嬉々として直したりしていた。ところが思わぬところで被害があった。台風後に北海道で地震が起こったのだ。


「よう」

「おう、新婚旅行の件やろ? まぁ入れ」


 旅行会社に勤める同期が開店した途端にやって来た。


「北海道やけどな、今行くのはどうやろう?」

「苫小牧も被害があったらしいな、予定が狂ったなぁ」


 地震により北海道の一部地域が被害にあった。


「そんな所に新婚旅行というのはいかがなものかと思うぞ」

「大丈夫な所に行って支援するって考えもあるけどな」


 全部の地域が被害にあった訳じゃない。北海道と言っても広い。無事だった観光地まで人が来なくなって閑古鳥が鳴いているとも聞く。


「とりあえずキャンセルしてくれるか?他の所への段取りはする」

「ちょっとフィアンセに相談するわ~」


「お前は鏡を見た事が有るか?」

「『フィアンセなんて言う(つら)じゃない』って言いたいんやろ」


 式まで半月を切っての予定変更。天変地異は何とも出来ない。新婚旅行は行きたいが、この時期に急な変更となると厳しいものが有る。キャンピングカーにモンキーとゴリラを積んで、キャンピングカーを拠点に道内をプチツーリングしようと考えていた予定は変更だ。


 北海道だけじゃない。関西国際空港も大打撃を受けた。連絡橋にタンカーが当たったり、滑走路が浸水したりした。今も完全に復旧していない。


 大島が困っていた頃、リツコの方でも動きがあった。


「母さんからメールだ、なになに……ありゃ? 娘の晴れ舞台なのに!」


      ◆      ◆     ◆


 結婚が近かろうが仕事は有る。式直後に10日間旅行に出てしまうから急ぎの仕事や預かりは当分やらない。でも細かな修理や来客は有る。


「「「こ~んに~ちは~!」」」

「ん?珍しい組み合わせやな」


 2ストサウンドを響かせて野郎2人を従えて来たのは綾ちゃんだ。


沢井綾(さわいあや)!」

「「With W!」」


「……用件を聞こう」


 来店していきなり駄々すべりだ。時の流れが緩やかな高嶋市でも微妙に古いと解っているだろうに。俺に合わせたんかな?


「おっちゃん、お願いが在るんやけどなぁ♡」

「いつもクールな綾ちゃんが言うと気味が悪いで」


 おねだりのセリフを愛らしく言ったつもりかも知れないが、クールビューティーな綾ちゃんが言うとうすら寒いものが背中を走る。佐藤君は困り顔をしているし、速人は、まぁ普段通りだな。


「理恵じゃあるまいし、パワーやったら十分あるやろ?これ以上改造すると金がかかるわ壊れるわやから新しいバイクを買い」


 ちなみに理恵が同じセリフを言うのはゴリラをパワーアップさせたい時だ。でも綾ちゃんはそんな事を頼みに来たのではないらしい。


「充分スピードは出るよ、今日は別のお願いがあって来たんや」

「理恵の事なんだけど、オッサンに頼みがあって」


 理恵の事とは如何に?


「理恵の事?バイクを壊しでもしたんか?」

「そうじゃなくって、何もしないでほしいんです」


 登場してから黙っていた速人が急に喋り出した。


「理恵ちゃんが来ても何も言わずに『ふ~ん』で済ませて欲しいんです。エンジンを積み換えたりボアアップしないようにお願いします」


 3人に頼まれなくても理恵のゴリラをパワーアップする気は無い。あのお猿のバイクをパワーアップなんぞしたらスピード違反で捕まること間違い無しだ。


「まぁ、何かわからんけどええで。整備はするけんどかまへんか?」

「修理は良いです。これ以上速くしないでくれたらそれでOKです」


 綾ちゃんと佐藤君も頷いている。3人で何か考えているらしい。


     ◆     ◆     ◆


 帰ってきたリツコさんが険しい顔をしている。しかも、驚いた事に酒を呑もうとしない。天変地異の前触れか、それとも何か体の具合が悪いのか。


「中さん、悪い話と良い話が有るんだけど、どっちから聞きたい?」

「実は俺も話が有る。リツコさんからお先にどうぞ」


「じゃあ、私からね。えっと、母が式に来れないって連絡してきた」

「ありゃまぁ」


「義父がどうしてもやめろって泣くんだって」


 今回の地震の映像を見た向こうの家族が日本行きをやめる様にと聞かないらしい。


「なるほどなぁ、関空もまだ酷いしなぁ。実は俺も地震絡みで話が有ってな。北海道のホテルが地震絡みで泊まれんらしい。旅行会社から連絡が来たわ」


「その新婚旅行なんだけど、それが私の方の話。中さん、パスポートは有る?」

「ん~、有ったと思うで。期限も切れてないはずや。確かめる」


 パスポートは確か期限が切れていないはず。商店街で旅行へ行く事があるから一応切らさないようにしている。


「お、あった。当分大丈夫やな」

「オーストラリアに行かない?母が結婚の報告がてらおいでって」


 新婚旅行にオーストラリアなら悪くない。カンガルーとコアラを見に行くなんてめったに出来る事じゃ無い。お義母さんに挨拶がてら行くのも悪くない。


「リツコさんの方は大丈夫?」

「私もパスポートは有るのよ。最近は修学旅行で行く年もあるからね」


 田舎の高校も多様化しているらしい。ちなみに俺の時は長崎だった。


「コアラを抱っこするのも悪くないな」

「義父に会うのも何年ぶりかしら」


 思わぬところで問題が解決してしまった。もしかするとリツコさん幸運を持って来る女神なのかと思いながら夜が更けていった。


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