低レベルなお客様(?)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する全ての人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
「おい、お前の店は中古バイク有るやろ、買うたるさかい負けぇや」
夏の暑い盛りで、大島のイライラが絶頂に達している所へ無礼な態度の若者がやってきました。ご丁寧な事にガムまで噛んでいると言う無礼っぷりです。
「…………」
無言で倉庫へ行き、大島が取り出してきたのは冬季に路面へ蒔く凍結防止材の塩カル…俗に言う『塩』です。
「……こんなもんか」
ザックザックと移植籠手で固まりかけた塩カルをほぐした後、大島は無礼な来客を外へ追い出して速射砲の如く塩を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返しました。
「貴様っ!客に何て事しやがる!お客様は神様だろうがっ!」
自称『お客様』は気が付かなかったのですが、店主である大島はキレていました。
「え?中さんがキレた所?見た事無いわよ?」と婚約者のリツコが言うくらいキレる事の無いこの男がキレるとは、キレさせた自称お客様(?)も大したものです。
「『お客様は神様』…だと?」
「そうだ!お客様は神と同じだから誠意を見せるはずだろ!だから俺を敬…痛いっ!」
ほぐした塩カルは底をつき、だんだんと粒子が荒くなってきました。
もうほとんど岩塩です。44マグナム弾並みの粒子の荒さです。
「ほう…お前は自分を『神様』だと抜かしたな、大きく出たもんやな」
と言いつつ塩カルを投げ付ける勢いは落ちていません。
「そもそも『お客様は神様~』と言うのは歌手の三波春夫が大元や…お前は三波春夫の理解者なんか?」
塩カルは何時しか拳大の塊となり、無礼な自称神様に襲い掛かります。
球速は100㎞/h前後、球質は限りなく重いので当れば激痛です。
「うるせぇ!そんなオッサンが好きな歌手なんか知るかぁっ!」
「知らずに言うとは…愚か者っ!」
自称神様は何やら踊り始めました。神の舞でしょうか?
「ううっ…俺様神様♪貴様何様?この店はポンコツ♪売り物もポンコツ♪店のオヤジはハゲで偏屈♪今都の為に安曇河は下僕♪」
「何やってるんや?変な踊りで歌いだして…暑さにやられたか?」
ちなみに自称神様は16歳。エミ〇ムだか何だかみたいなラップで大島をディスっています。ラップは今都市立中学校のダンスの授業で覚えました。
「てめぇをディスってるんだよ!わかんねぇのかオッサンはよ~っ!」
「ディスるとは悪口を言う事やったな、踊りながらそのパフォーマンスは…」
大島は『ふむ』と言って自称神様を上から下まで眺めています。
「人の目を引く動きでリズミカルに悪口を言う、…きみ〇ろ芸か…」
「どうして中高年のアイドルになるんだよぅ!」
大島は腕を組んで目を瞑り考えました。そしておもむろに『カッ!』と目を開けました。
「身振り手振りで注目を集め、ダジャレ交じりで悪口を言う…」
大島の目がギラリと光り、鋭くなりました
「………つまり………『きみ〇ろ』だ」
「きみ〇ろじゃ無ぇって言ってるだろうがぁ~っ!」
懐から安曇河名物の扇子が出てきました。
「俺にもお前と同じ若い頃は有った…あれから20年!」
「あんなのと一緒にするな~!」
大島の目に怒りの炎が揺らめき始めました。巨人〇星状態です。
「お前がきみ〇ろを『あんなの』呼ばわりする資格はあるんか?漫談テープの手売から始まり、苦節10年の末にスターダムにのし上がったき〇まろをまともなバイクを買う金の出せないお前が『あんなの』呼ばわりして否定やと!顔をタ〇ヤ水研ぎペーパーで磨いて鏡面仕上げにしてから出直して来いっ!」
まさかの綾小路き〇まろ推しで神様を追い払おうとしますが、若者は引き下がりません。
「クソオヤジ!頭に来た!お前に一言物申す!」
「何っ!物申す…だと!」
大島は海原〇山の如き迫力で言いました。
「お前さんみたいな半端者が物申すなど笑止千万!」
「なんだとぅ!」
「江頭2:5〇分の様に伝説の1つも残せん若造が物申すな!帰れっ!」
まさかのきみ〇ろ推しと、江頭2:5〇返しで無礼な若者は腰を抜かして這いながら帰って行きました。
「まったく…きみ〇ろ先生とエ〇ちゃんを馬鹿にするとは…愚かな…掃除しよ…」
バラまかれた塩カルを集めながら大島はため息をついています。塩カルは天日にさらして乾燥させてから密封して保存します。乾燥剤が入っているので食べてはいけません。
「素直に『安いバイクは無いですか?』って聞けばよいのに…」
大島中は自転車屋さんです。オッサンで、綾小路きみ〇ろ推しです。ドーン教信者です。つ〇イノリオ教の信者でもあります。
「神様は…まぁ、神様にもいろいろ居るわな…」
『自称神様』は大嫌いです。そして、ポンコツバイクを整備する偏屈オヤジです。




