学生は夏休み
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
梅雨が明けたと思ったら急に日差しが強くなった。夏到来である。
成績表を見て寒くなった者もいたりするが学生達は夏休みに入り、暑い日々を送っていた。
そんなある日の大島サイクル。
「なあ、おっちゃん?」
「なんや?」
『なあ、おっちゃん?』の本家本元の理恵がこれを言うのはゴリラに何かしたい時。
8割方が実現不可能だったり、実現可能でも費用が掛かり過ぎたりで結局何も変わらない理恵のゴリラ。
「オイルクーラーって要るん?」
「オイルクーラーなぁ…」
理恵と速人のバイクはホンダ横型エンジンの75㏄。特に凝った改造をしてあるわけではない。
ミッションは入れ替えてあるが、ごく普通のスーパーカブのエンジンと一緒だ。
「おっちゃんは要らんと思うぞ。海外の暑~い国でもカブは普通に走ってるからなぁ」
「ふ~ん、じゃあ要らんのや」
要らないとは言ったものの、最近の暑さはどういう事だろう?
俺達のガキの頃と比べると5~6℃暑いのではないかと思う。
「でもなぁ、こんだけ暑いと要る様になるかもしれんなぁ」
「やっぱり高価い?」
やはり気になるのは費用の事だろう。学生はお金が無い。
「安い物でも2万円くらい。自分でやるんやったら工賃の分安く出来る」
「2万円か…う~ん、ちょっと考えとく」
「おっちゃんも正直よう知らん。でも安い物は安い理由があるからな」
「うん」
さて、夏休みに入ったと言うのに何故理恵は制服で居るのだろう?
「理恵、また寝ぼけて学校に行こうとしたんか?」
「ううん、速人と図書室で勉強。暑いもん」
理恵は2年生。夏休みが明けたら受験勉強や進路を意識する時期に来るはず。
「そうか、今都までやったらオーバーヒートは無いと思うから慌てんでエエよ」
「うん、何か有ったらまたお願い」
じゃあねと言い残して理恵は学校へ行ってしまった。
賑やかなお猿が行ってしまうと店が静かになる。暑い事も有って来客が殆ど無い。
今日もリツコさんは仕事に行っているから家には俺一人だけ。
生徒が夏休みとは言え職員は普通に出勤だ。まぁ有給は取りやすくなるらしいが。
夏休みに入って通学する生徒が少ない為か店に寄る学生も少ない。
去年の夏は高嶋高校の生徒が事故を起こして大騒ぎだったのだが、今年は静かなものだ。今年の春からバイク通学担当になったリツコさんのおかげだろう。今までに比べると変な来客が少ない。
「さてと…今日も酷暑やなぁ…水を出しとこ」
融雪ホースが夏に役立つとは思わなかった。地下水のポンプを動かして蛇口をひねるとホースから水が噴き出る。噴き出た水は駐車場の熱を奪って側溝へ流れていく。濡れた駐車場の水は蒸発するときに気化熱を奪って辺りを冷やす。先人の知恵は大したものだ。
◆ ◆ ◆
「でね、ここがこうなって…公式を当てはめると…」
「うん、でここから先で間違うんやなぁ…」
今年も理恵は速人と高嶋高校の図書室でお勉強。ただし、昨年と違って二人きりだ。
誘ったのだが、綾と亮二は二人で何処かへ行き用事があるらしく断られてしまった。
「そっか、ここで間違えたんだねぇ…速人って教えるの上手~い」
「…まぁね」
去年はそれなりに多くの利用者が居た高嶋高校の図書室だが、今年は利用者がやや少ない。おかげでクーラーは良く効くし、静かで勉強がはかどる。昨年度から厳しくなったバイク通学規則はここにも影響していて今都の生徒に許可が下りにくくなったのと、そもそも今都の生徒自体の入学が減ったことが大きい。
図書室に涼みに来ようにもバスで通うのは面倒で不便。自転車だと来るまでに汗だくになってしまう。バイクで来れば寄り道し放題で時間も気にせず来れるのだが、そうでなければ高嶋高校は案外不便な所にある。
「さて、今日はここまでにしよっか?」
「うん、いや~速人と勉強すると進むわ~」
理恵が両腕を伸ばして伸びをすると、窓から真っ青な空が見えた。
季節は夏。理恵の脳裏に進路の事がちらつき始めた。




