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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 7月 もうすぐ夏休み
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なあ、おっちゃん?⑤後日談

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

大島の昔話を聞いた瑞樹はふと思った。


「そう言えば、お父さんはその時に何をしてたんやろう?」


疑問に思って父に事故当日の事を聞くと、不思議な事に何故か職員室に行っていたらしい。


「何かタバコがどうとか言われて呼ばれててな…吸った事無いのになぁ」

「じゃあ、西川先輩のお父さんは?」


ん~と言いながら思い出そうとした父だったが、思い出せないらしい。


「あいつも何かで呼び出されて、駐輪場で会ったな…」

「なあ、おとうさん?その時の事、教えて」


「思い出せ言われてもなぁ…急に『お前、タバコ吸うたんか?』って問い詰められて、持ち物検査と身体検査をされて、まぁ、お父さんはタバコ吸わんから無罪放免や」

「ふ~ん、じゃあ西川先輩のお父さんは?」


ふむと腕を組んだ俊樹だったが、頭の上に電球が出たように何かを思い出した。


「…あいつも生徒指導に呼び出されたかもとか言うてたな…」

「ふ~ん、で、そっちも無罪放免?」


「もう20年以上前の話やからな…そこはあんまり覚えてないわ。まぁとにかく、2人でチャリに乗って走り始めたら真旭の…ほら、今の市役所に行くのに降りる所で自転車の残骸があってな、次の日に聞いたら大島やったって訳や」


茶をすする父の表情から察するに酷い事故だったらしい。


「大島のおっちゃんの話によると、タイヤを蹴られてみたいな話やったけど…」

「そうや、お父さんは瑞樹が同じ様な目に会うのが嫌やから自転車通学に反対してる。自転車はヘルメットの着用義務がない。その割にスピードも出るから怖いんや」


「でも、蹴られたんやったら警察に言うたら良かったのに…」

「瑞樹は知らんやろうけど、25年くらい前はな、『今都以外は人に有らず』って言われて傷害・殺人では警察は動かんかったんやぞ。お父さんの若い頃は安曇河の人間は犬や猫より低く見られてたんやから」


今はそれほどでも無いが、今都で事件が起これば警察はすぐに動く半面、他の町での事件が起こった時の反応は鈍い。今都は剣道が盛んな街で、警察でも剣道で何らかの繋がりが有るらしい。剣道繋がりで今都限定で便宜が図られているとの噂も有る。


「そやからな、お父さんに限らず今都が嫌いな奴は多いんと違うかなぁ」

「それに付いてハイハイ言ってる蒔野町も『今都の金魚の糞』って言われてるんやね」


「ところで、自転車の競走ブームが終わったのって何で?学校が禁止したから?」

「ん~っとな、大島が入院して、お父さん等も熱が冷めてたからな…」


さて、血を血で洗うような高嶋高校の自転車競走ブームだったのだが、

それを終わらせたのは暴走した今都町から通う生徒だった。


「打ち上げ花火とか模型のジェットエンジンを自転車に付けて来よってな、湖岸道路の脇の草を燃やして消防が出るわ、爆発するわ、挙句の果てに制御不能になってトラックに『ドカ~ン!』や」

「う~わ、それって警察は動かんかったん?」


「動かんかったなぁ…当時は『今都ですげヴぉ?』でOKやったしな」

「おっちゃんは『警察が動いた』って言ってたで?」


実際は警察が動いた事に間違いが無いのだが、それは大島が退院してからの話。

あまりの事故の多さに何事かと動いた県警本部が今都署(合併後の高嶋警察署)を調べたところ

交通課の課長と署長に高嶋高校へ通う息子が居り、その息子たちが絡んだ事故の揉み消しをした事が判明したからだった。


「大島が退院してリハビリする様になってからかな?ブームが終わったんは」


大島の事故の噂は生徒の間で広まり、高嶋郡(当時)南部から通う生徒は無意味な競争を止め、少し遠回りではあるが湖岸道路を通って学校へ通うようになった。


国道161号線を走るのはスピードに狂った今都の生徒ばかりになった。

元々が『今都以外から通う連中を傷めつける』『今都の優秀さを示す』が目的の連中だから、今都同士で走っても目的が達成できず、一部の自己顕示欲の強い者以外は走るのを止めた。


「それでもジェットエンジンを積んで車並みのスピードを出す奴が居たな…」


その結果が死亡事故多発となった訳である。


「ブーム終わるまで安曇河から自転車で通う生徒はどうしてたん?」

「お父さん等はな…もう恐ろしゅうなって、ゆっくり走ってた」


大島の怪我を見た後の俊樹は自転車通学はしていたのだが、走るステージは国道161号線バイパスから湖岸道路に変更、競走を止めて景色を楽しみながら自転車に乗っていた。そうしている間に大島は新しい自転車で恋人と二人乗りで通学を始め、また3人で自転車を漕ぎながらリハビリをしていた。


「元通り3台揃った時には競走ブームは終わってた。何やってたんやろな?今思うと自転車を触ってスピード出して、転んで小遣いを使って…まぁ命を落とす前に止めて良かったわ…」

「お父さんも青春してたんやなぁ…」


瑞樹は父の話を聞いて、何故父が自転車通学に反対したのか分かった気がした。


この後、瑞樹は安全運転を心がけてバイクに乗るようになったのは言うまでもない。



自転車は交通ルールを守って楽しく乗りましょう。作者からのお願いです。

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