なあ、おっちゃん?④事故の記憶
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
大島の昔話が続く。
「まぁ、おっさんも高校生で若かったからな…挑発に乗ってしもたんやな」
「ふ~ん、でも、1対1やったら簡単には負けへんのと違うん?」
不思議そうに聞いてくる瑞樹ちゃんに被せて速人が口を挟んできた。
「あれ?前に4対1とか言ってませんでしたっけ?」
「そうや。それが話の続きやな…」
◆ ◆
「ルートは校門から161バイパスを安曇河駅口まで」
「OK」
先行すると風の抵抗でバテるからと後位を取った俺だったが、走るうちに脇道から3台の自転車が相手の前に躍り出た。
(1対1と思わせて勝負を受けさせてからの合流か…卑怯者め…)
風の抵抗は少ないが、前位に着いた3台を追い抜くのは難しい。
(クソッ…あの野郎…番手に付きやがった…)
対戦相手は2番手について風の抵抗を受けずにゴールへ一番好位置。俺は4番手のマーク屋にブロックされて追い越す事が出来ない。もう少し高速の伸びが有ればと思うが、現在時速45㎞…
(目一杯回すと…時速50㎞…でもこの先が…チェーンがきしむ…油差さんといかんな…)
真旭ランプを過ぎてもブロックに阻まれて追い抜くことが出来ない。それどころか先行の2台がスルスルとリードを始めた。2台にブロックさせて自分たちは先に安曇河へ到着する作戦だ。
(形勢は極めて不利や…勝ち目は…ほぼ無い…アレしか無いな…)
ブロックされながらチャンスを待つ…
(まだや…脚力を温存…箱車来い…平荷台…アカン…箱車の10トン…来い…)
◆ ◆
「それって、トラックに吸い込まれそうになる奴ですか?」
話しが佳境に入って来たところで四葉ちゃんが青い顔をして聞いて来た。
「そうや、トラックが走る時に後ろに出来る乱流に乗ってな…」
「吸い込まれたら死んでしまうで!」
「……」
「私のゴリちゃんだと吸い込まれるね」
「僕のモンキーでも一緒」
「私のホッパーでも吸い込まれそうになって怖いけど、麗ちゃんは?」
「マグナは低いけど、やっぱり怖いよ?」
今思えば、相当危険な事をしていたと思う。認めたくないものだな…若さゆえの過ちは。
◆ ◆
(10トン車…10トン箱車…来てくれ…)
そう思いながら脚力を温存しながらの追走を続けているうちにバイパス終点が近付いてきた。
ここからはバイパス未完成地点、下り坂を利用して加速と思っていたら待望の10トン車が来た。
(おっし!追走…48・49・51・53・行くぞっ!)
トラックの乱流に引き寄せられてスピードアップ・追走開始。
(マーク・3番手…クリア…番手を押さえて…もう1m…行けるっ!)
そう思った途端に先頭車から脚が伸びて俺の愛車の前輪を蹴飛ばした
(!……あっ…)
下り坂とトラックの乱流で限界を超えたスピードを出す俺は、
避ける事も態勢を立て直す事も出来なかった。吸い込まれるようにトラックのテールが…。
トラックにぶつかった後はアスファルトに叩きつけられた…と思う。
◆ ◆
「で、気が付いたら左半身に骨折が数か所。病院のベッドとなった訳やな」
「それでお父さんが自転車通学を反対したんや…」
俺が入院中も自転車レースは続いていたらしいし、事故も有ったらしい。
でも気が付けば小島も中島…今は西川だが…も自転車競走は止めていた。
俺達はその後も友人であり続けて高校卒業後も付き合いが続いたのだが、小島は就職をして県外に出てから、西川とは…当時の婚約者の葬儀の後から疎遠になった。
「認めたくないものだな…若さゆえの過ちとは…」
「なあ、おっちゃん?震えてるん?」
忘れていたと思って昔話を披露したと思っていたのだが、体は今もあの時の恐怖を覚えているらしい。
「何年経っても怖さは忘れん。トラウマってやつやな」
◆ ◆ ◆
この日の夜、俺は夢を見た。忌々しい事故の記憶だ。
トラックのテールが迫り、アスファルトが迫る…動けない俺を足で突く4人組…
「やべぇ…殺人とかにならんやろか…」
「大丈夫、『今都以外の者は人に有らず』って習ったやん」
「人じゃないからOK!行こう!」
「俺らは最強!今都は最高!4町1村踏み台に~♪」
(…うう…今都め……卑怯者…)
「中さん!中さん!」
「ん?」
急に揺さぶられて目が覚めた。心配そうに俺の顔を見ているのはリツコさんだ。
「夢か……怖かった…」
「また怖い夢でうなされたの?よしよし…怖かったね~」
「うん、怖かったんや…」
「よしよし…抱っこしてあげるから安心して寝てね…」
「うん…」
リツコさんの柔らかな感触に安心して眠った俺は…
「……寝過ごした」
やっぱり寝過ごして大慌ての朝を迎えるのだった。
自転車は交通ルールを守って安全運転で。作者からのお願いです。




