なあ、おっちゃん?③挑発
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
高嶋高校の上下関係は比較的緩やかな方であろう。一応だが上級生は『〇〇先輩』と呼ぶが、
親しい間柄なら『〇〇ちゃん』『〇〇さん』『〇〇クン』と呼ぶ場合も多い。
もっとも、今の段階では麗たちと理恵のグループはそこまで親しくないが。
「白藤先輩たちは、おっちゃんの自転車に乗ってた頃の話は聞いてないんですか?」
「ん?おっちゃんの高校の頃やろ?卒レポに書いてあったで」
「去年見てたよね?」
麗たち4人組は理恵に教えてもらい、大島の卒業レポートを読み始めた。
「おじさん、事故してはるんや」
「そうだよ。良く見ないと解らないけど左足を引き摺ってるでしょ?」
「競走で転んで左半身に少しだけ後遺症が残ったって言ってたよ。ほら、ここ」
速人は大島のレポートの一文を指差した
「結構派手な事故だったみたい。新聞に出たんだって」
詳しくは卒業レポートには書かれていなかった。
「実は、お父さんが自転車やバイクで通学するのを嫌がる理由がおじさんの事故みたいなんです」
瑞樹たちは大島から聞いた話を理恵と速人に教えたのだが、ある程度は2人とも知っていた。
「事故の事は僕も聞いた事が無いや」
「私も。おっちゃんは『競走なんかするな』って言う理由を聞きたいな」
こうして1年生4人組と理恵・速人は大島の店に寄る事になった。
◆ ◆ ◆
「何や?お前ら行くところが無いんか?」
今日は6人も来たとあって、大島サイクルの店内はかなり窮屈になった。
「この前の話の続きを聞こうと思って」
「おっちゃんが事故した話はチラッと聞いたけど、詳しい事は聞いてないしな」
「ついでに何か飲む物を…」
勝手な事を言いながら店の椅子を出して座る高校生が6人。
学生達にサイダーを出して大島もパイプ椅子に腰かけた。
「さてと、じゃあ、アホが事故った話でもしてやろうかな…」
◆ ◆ ◆
3人組となり、連戦連勝とまではいかないがそこそこの勝率になった俺達だったが、二年生になってからは進路指導や恋人が出来たりで毎日一緒に帰らない日も在った。
そんなある日の事だった。
「おい、『湖岸のツインターボ』だっヴぇ?俺と勝負いヴぉよw」
「今日は1人や。帰ってメンテナンスするからお断り」
そろそろチェーンの調整やグリスアップをしないと…そう思っていた所に挑まれたワッパ勝負。断る気でいたのだが今都の…なんて奴だったかな?とにかくしつこい奴だった。
「だったらよ~タイマン張ろうヴぇ?タイマンw」
「こっちは連戦でガタ来てるんじゃ!断る!」
そこで断れてたらと今になって思うが、若かったんやろうな。
「ツインターボはツインターボでも馬の方ヴゃ?最後に追い抜かれて負け!『湖岸のツインターボ』じゃなくて勝負から逃げる『逃げ馬ツインターボ』ヴぁにゃ!」
「うるせぇ…そんなに負けたいならタイマンでやったろうやないか!」
◆ ◆ ◆
「っという訳でカッとなった若き日のおっさんは勝負を受けてしまった訳や」
「もももでおっふぁん…」
理恵は何か言っているが、大判焼きを口一杯に頬張っているので何が何だかわからない。
話の序盤で…6個目か、毎度毎度よく食うなぁ…何処に入ってるんやろう?
「ふぅ…ところでおっちゃん、『タイマン』って何?」
「タイマンは1対1で勝負する事や」
「でも、お父さんは『大島は今都の連中にやられた』って言ってたで?」
「ああ、俊樹から聞いてるんか?じゃあ、その辺から話を続けようか?」
空になったグラスにサイダーを注ぎ、追加で茶菓子を出して大島は再び昔話を続けた。
自転車は交通規則を守って安全運転で。作者からのお願いです。




