なぁ、おっちゃん?①大中小トリオ誕生
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
テスト期間も終わり、学生達が青春を謳歌し始めると大島の店に客が訪れる。
「なぁおっちゃん?」
「ん?」
普段ならこのセリフは理恵が言う所だが、今回は我が同期の愛娘の瑞樹ちゃんだ。
「珍しいな、1人か?」
「うん、ちょっと良い?」
「ん~、何か飲みながら話そうか…ココアとかどうや」
「うん、おっきん※高嶋市の方言・ありがとうの意味」
蒸し暑いから氷を入れてアイスココアにして出す。俺はパックのコーヒーだ。
ココアを出して腰を据えて話をする事にする。
「なあ、おっちゃん。お父さんと自転車に乗ってた頃の事を教えて」
「そらまた何でや?もう随分昔やからなぁ…」
昔の事は記憶の中で美化されたりするから正確ではない。
「お父さんが自転車とかバイクを怖がるわけを知りたいんや~」
「知りたい言われてもなぁ…何所から話して欲しいんや?」
「おっちゃんとお父さんが高校のころが良いな」
「高校の時か…アルバムを見ながら話をする方が良さそうやな…」
幸いな事に今日は来客が少ない。
「誰か来たら呼んでな。アルバム取って来るわ」
「うん」
そう言えば、この前、リツコさんが見て…何処に置いたかな…机の上か。
「じゃ、アルバムを見ながら話するか…」
◆ ◆ ◆
時は平成初期、JR湖西線が1時間に1本しか走っていない頃の話だ。
「中っちは自転車通学で一人狼やってるやろ?俺と組まんけ?」
「ん~っとなぁ…一人の方が気楽なんやけど、今都の連中がな…」
その当時、ソロで走っていた俺は今都の連中相手に負けて負けての連敗続きだった。
「ほら、この漫画を見てみ。ラインを組んでって有るやん」
その当時、俊樹が読んでいた競輪漫画には『ライン』『番手』『マーク屋』などの
競輪での役割が詳しく乗っていた。
「1人で走るのは気楽かもしれんけど、やっぱりラインを組んだ方がエエで」
「ラインなぁ…せっかくやから、もう1人増やして3人とかはどうや?」
当時の国道161号線の最高速ランナーは高級な自転車に乗った今都勢の勢力が強かった。
往路と授業で疲れた俺達みたいな北部勢に競争を仕掛けてくる嫌な奴らだった。
あいつらと来たら今都→安曇河を走ったら輪行バッグに入れて電車で帰りやがる。
高級ロードレーサーで復路の心配が要らない奴らは競争に全力を費やしやがる。
「おう、じゃあ、隣のクラスに行った中島とかはどうよ?」
「中島か…おとなしい奴やけど、どうよ?速いんか?」
その当時の中島(現・西川)は外装5段変速の軽快車で、やはりソロで走っていた。
「ちょいと声を掛けてみるか」
小島の行動は早かった。その日の昼休みには3人で集まって帰り道で試走をした。
「やっぱり漫画である通り、機関車・番手・マークの役割は大事やと思う」
小島はロードタイヤを履かせたマウンテンバイクだから当たりに強い反面最高速は伸びない。
中島は5段変速で最高速はまぁまぁ伸びる。だが、若干脚力とスタミナが劣る。
そして俺、大島はシティサイクルで内装3段ギヤ。小島より当たりに弱い。
加速はギヤの少なさを脚力でカバー出来ているが、最高速での巡航は中島より辛い。
「どの道10㎞全部を先行して時速45㎞キープは無理や。交代しながらやな」
西川の分析では巡航速度はを45㎞/h辺りにして、勝負どころだけスクランブルで全力疾走が
良いだろうとなった。本当の最高速を出せるのは30秒が良い所だからだ。
「中っちは最高速は50㎞/hで一瞬だけ60㎞/hに乗る感じ?」
「小島も似た感じか…タイヤが太いからコーナーと競り合いは強そうやな」
「俺はギヤに助けられて走れてる。脚力は一番下やな」
巡航は3人で順繰り交代で、バトルの時は俺が先頭で、2番手が中島、3番手が小島と決まった。
◆ ◆ ◆
「…と言う感じで3人が集まって走り出したんや。ココアのおかわりは?」
「えっと、中島さんが結婚して西川さんになったんやな?」
「そうや。2年生で西川絵里って居るやろ?その親父さんがおっちゃんの同期や」
「あ、続きはまたで、今日は帰ります。今度はその後を教えてや~」
話の続きはもう1年半分有るのだが、今日はここまで。瑞樹ちゃんを見送ってから店を閉めた。




