大島・梅雨が嫌い
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
高嶋高校のテスト前になると大島の元へ訪れる客は急に減る。
高嶋高校の生徒にとって駄菓子屋であり、喫茶店である大島サイクルもテストには勝てない。
空いた時間は料理をしたり、中古車を商品化したりと時間を無駄に使わない様にする大島だが、ジメジメとした梅雨の時期はやる気が出ず、ダラダラと過ごす事も有る。
「湿気が少なかったら暑うても我慢できるんやけどなぁ」
この時期は湿度が高く、汗の気化熱による冷却効果が期待できない。
「人間にもオイルクーラーを付けられたらええのに…」
そう思わずにいられない梅雨の時期、毎年この時期になるとクーラーを設置してガンガン冷やしながら仕事をしたいと思うのだが…
「クーラーは…償却出来んからなぁ…電気代もかかるしなぁ」
残念ながら大島サイクルはそれほど儲かっていない。
「扇風機で我慢我慢。『ぜいたくは敵だ』ってな…」
◆ ◆ ◆
「ねえ速人♡ 今日も勉強教えて」
「いいよ。図書室に行こうか?」
授業が終わった途端に綾と亮二はとっとと帰ってしまった。まぁテスト前ではあるし、
遊ぶわけにもいかず、今日も理恵は速人とお勉強。
「図書館はエアコンが効いてて良いよね」
「ウチもエアコンは有るんやけど…『電気代がもったいない』ってお母さんが煩いんや」
そんな事を言いながら訪れた図書室だったが…
「うわ、満員や」
「逆に蒸してるくらいだね」
同じ様な考えでだろう。図書室の机はビッシリと埋まり、集まった生徒の熱気でエアコンがフル稼働しているにも関わらず蒸し風呂の様になっていた。
「…帰る?」
「う~ん、勉強はしたいなぁ」
理恵の成績は速人と勉強する様になってから安定している。速人の教え方は理恵に合っているらしくてスルスルと頭に入る。1人だと集中できずに漫画を読んだりして脱線してしまう理恵だが、速人と二人なら脱線してもすぐに勉強へ復帰できる。
「じゃあ、おじさんの所に行く?」
「おっちゃんの店も蒸し暑いと思う。おやつは出て来るけど…」
今の最大の目標は『涼しい所で勉強』だから、大島の店では目標達成できない。
「じゃあさ、ウチに来る?」
「え、速人の家?良いん?」
「いいよ。家も2人だったらクーラーを入れても大丈夫」
「ん~、じゃあお邪魔しようかな?」
梅雨の厚い雲の下、2台の小さなバイクは国道161号線を南下した。
とぼけた排気音を出しながら走り続けて十数分で2人は速人の家に到着した。
「ただいま…って、誰も居ないんだけどね」
「お邪魔しま~す」
「ちょっと待っててね、何か飲む物とって来る」
二階の速人の部屋へ通された理恵はテーブルの前に座った。
「ここが速人の部屋か…男の子の部屋ってこんな風なんだ…」
本棚には漫画が並び、机の本立てには教科書に参考書が並んでいる。
しばらく部屋の様子を眺めていると速人が飲み物とお菓子を持って階段を上がって来た。
「お待たせ、じゃあ、勉強しようか?まずは初日の英語Rから…」
「うえ~い」
テスト期間はバイクどころではない二人だった。




