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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年 6月
36/73

大島リツコ・70歳になりました

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

大島リツコ、とうとう70歳になりました。でも見た目は50代。若く見えるでしょ♪


私が中さんに初めて抱かれてから40年が経ちました。


初体験の痛みやらいろいろな感情で泣いてしまった私に『もう泣かせる事なんかしない』と約束した彼だったけど、その後もいろいろと私は泣かされた。結婚式の時は泣いた。それからも中さんが勝手に動かした箪笥の角に小指をぶつけたりした時も泣いた。出ていた鼻毛を抜かれて泣いた事も有るし、間違えて唐辛子を入れ過ぎたキムチ鍋で泣いた事も有る。そして、彼の体が病で余命いくばくもないと宣告された時も泣いたし、彼が亡くなって葬式の後、遺影を見て泣いた事も有った。


亡くなった時、私は泣かなかった。精一杯の笑顔で見送った…涙は出たけど。


「見送るんやったら笑顔で頼む。俺はリツコさんの笑顔が好きや…ゴメンな…」


それが最期の彼の言葉だった。桜が咲く季節に彼は逝った。


20年少々の結婚生活の後、私はまた一人暮らしに戻った。

あれから何度も愛し合ったけど、私たちは子供に恵まれなかった。

子種が無いとか先に死ぬから一人に戻るとか言われていたから覚悟していたけれどやっぱり寂しい。


1人に戻った私は実家へ戻った。店の方は中さんが跡継ぎを見つけて営業中。店を継いだのは私が中さんと知り合った頃に店に出入りしていた本田君。今では新高嶋市のバイクショップとして真旭・高嶋・安曇河・朽樹に1店舗ずつ出店している。家を借りていた今津兄妹はお兄さんが結婚。妹ちゃんは上京してバリバリやってるみたい。


晶ちゃんは大津の機動隊で白バイの教官になった。可愛い彼と結婚して1男1女を授かった。今も家族ぐるみで交流がある。さすがに大型バイクは乗ってないけれど、250㏄のバイクに乗って遊びに来てくれる。イケメンだった晶ちゃんも孫が出来た。定年後はすっかりお祖母ちゃんしてる。見た目もお婆さんになった(笑)


この町も変わってしまった。今都と蒔野は旧・高嶋市から離脱。立派な市庁舎が出来たりしたけれど、気が付けば財政破綻した。自衛隊が移転したのと原発が無くなって助成金や補助金が無くなったんだとかが原因だって。私が定年の何年か前には高嶋高校も真旭へ移転したし、この十年くらいは行ってないからどんな風になってるかは良く知らない。


白藤…いや、今は本田さんか…理恵ちゃんがいつか見た初夢みたいな事になってる。

高嶋市は分裂して今都市・新高嶋市・朽樹町に別れた。


新高嶋市とは言っても、ほとんど何も変わらない。私は中さんの作ったカブに乗ってお買い物。

今の我が家はゼファーちゃんとリトルちゃんだけがガレージに居る。


ジャイロは部品が出なくなって修理も出来なかったから廃車。私が下宿するきっかけになった倉庫の主は引っ越しに持って来た途端にエンジンがかからなくなった。不思議な事に本田夫妻がキックするとエンジンがかかる。私じゃなくて店の主にしかエンジンがかからないお呪いがかかってるらしい。だから置いて来た。


中さんと出会ったのがスーパーカブ60周年。あれから40年経った今年は100周年。

今ではハイブリッドのスーパーカブがリッターあたり800㎞走る時代。私のリトルちゃんは

リッター60㎞位しか走らないからガス喰いの部類に入る。


「独りでもいいも~ん。寂しくなんかないも~ん」


中さんとの想い出のリトルカブは今でも絶好調。本田君の整備のおかげで今も日常使いが出来る。

ゼファーちゃんの出番は減った。たま~に晶ちゃんの所へ乗って行くけど…重い。


「ゼファーちゃんとも長い付き合いだね~乗ってあげられなくてゴメンね」


リトルちゃんにワックスをかけたあとはゼファーちゃんにもワックスがけ。


「ふんふんふ~ん♪…あっ」

ガシャン!


何かの拍子でサイドスタンドが外れてゼファーちゃんは横倒しに…そして、運悪く私の上に乗っかって来た。上に乗られるのは久しぶり…なんて言ってる場合じゃない!重い!死ぬ!


「うっ…くっ…重い…重いよぅ…」


今も50代と思われる位の見た目だけど、中身は70歳。ゼファーちゃんをどける事が出来ない。


「重い…重いっ…助けて…助けて…」


ゼファーちゃんの下から抜け出す事が出来ない。意識が遠のく…どうしてだろう…


「リツコさん…リツコさん…行こう…」


中さんの声が聞こえる。私にもお迎えが来たみたい…


「私は大島リツコ。バイクの下敷きになってこの世を去る……」

「何言ってるんや?婚約指輪買いに行くんやろ?式場の打ち合わせも有るし…」


中さんが変な物でも見る様に私の顔を覗いていた。


「ほへ?」

「ずいぶんうなされてたけんど、変な夢でも見たんか?」


妙にリアルな夢だった。おかげで寝汗でビッショリだ。


「出掛ける前に、ご飯やな。シャワー浴びてる間に用意しておくから」

「うん…」


夢は正夢になるのかもしれない。でもそれでも良いかな…


私は磯部リツコ30歳。もうすぐ名前が変わります。



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