中華なお猿④
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係がありません。
物には作った人の気持ちが宿っていると思う。では、目の前にあるこのバイクはどうだろう。
ホンダモンキーには設計した人・工場で組み立てる人・売る人・そして乗る人の遊び心が宿っていると思う。まぁあくまで個人的な見解ですってところだが。
「う~ん、やる気が起こらん」
この錆びたバイクからは作った側の遊び心とか、前の持ち主の愛情とかが全く感じられない。
「こんなもん…ゴミじゃ!」
グスグスに錆びてブルボンのルマンド状態になったタンクは踏み潰して廃棄。
踏んでバラバラになるタンクなんて直そうとするだけ無駄だ。
割れまくったサイドカバー・ヘッドライトカバー・前後の泥除けもゴミ箱行。
樹脂類・ゴム類は尽く全滅。割れ放題・壊れ放題だ。劣化が激しい。
「電装関係とエンジンは残しておくか…」
フロントフォークはインナーが錆びだらけ。スイングアームは溶接が怪しい。
使えない部品が次から次へと出て来る。ペール缶がすぐに一杯になる。
壊れた部品・使わない部品を外すと…フレームしか残らなかった。
結局使えそうな部品は書類付きのフレームのみ。あとは直すよりウチにある部品を使う方が良さそうな物ばかり。程度の良い部品を使うのは惜しい。程度の悪い部品を組み付けて10万円くらいでオークションに流すって手もあるけれど面倒だ。フレームとエンジン以外の殆どの部品は不燃物として処分した。
一応バイクとして形があった物をバラバラにして捨てるのは心が痛む。でも今回は仕方が無かったと思う事にする。直すなら純正フレームに純正部品で組むのが気持ち良い。部品だって無尽蔵にある訳じゃない。いつか尽きる。古いスカイラインでGTR仕様に乗っている人から聞いたのだが、本物のGTRに乗る人から『あなたみたいな人がいるから本物に乗っている人が困るんです』と注意される事が有るそうだ。それに近い事がバイクの世界でも起こる時代になるかも知れない。
フレームは新聞紙に包んで書類と一緒に部品棚へ保管。今後使うか使わないかは解らない。
◆ ◆ ◆
「で、中国のお猿さんは骨だけになったんだ」
「うん、直すどころか部品取りにもならんかった」
今日の肴は私が作った。私だって料理の一つや二つは出来るのだ…エッヘン。
「なぁ…リツコさん、食べてて飽きんの?」
私のお料理を見て中さんが物欲しげに見ている。実は正直言って飽きた。
「飽きてきた…」
「半分に切れば良かったのに…生姜でも擦ろうか?葱、刻もうか?」
「お願いします…」
暑くなってきたから冷奴と思って出したんだけど、1丁は大きすぎたかな?食べてるうちに飽きてきた。そもそも豆腐を斬るのは難しい。包丁を使ったりして怪我したらお酒が呑めなくなっちゃう。
「はい、生姜とネギ」
「ありがと、でもちょっと手伝って…はい、あ~ん」
「お…あ~ん…恥ずかしいな」
インフルエンザの時のお返し。どうだ参ったか。
「ふっ…真っ赤になって…愛い奴よのう…」
「前から聞こうと思ってたんやけど、何で時々悪代官対応なんや?」
「良いではないか良いではないか…」
結局、お猿さんは直らなかったみたい。だけど中さんは気持ちの整理が出来たみたい。初めて分解して分かったのは外国製のお猿さんは中さんの求める物では無かったんだって。
「まぁ、アレやな。浮気はアカンって事や」
浮気なんかしないでね♡
この後、中は亡くなるまでリツコ一筋だった。




