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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年5月
29/73

中華なお猿①

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

ホンダモンキーが生産終了して半年以上になる。今もモンキーは高値安定中。

中古で買おうにも10万円で買える物では無い。そんな値段だとレストアベースだろう。

でも、新車で10万円でモンキーの様なバイクを買えない事は無い。


「よう、面白いバイクが来たから買わんか?」

「またお前か…」


毎度おなじみ顔なじみのバイク回収業者がまたバイクを持って来た。

見た所、錆だらけのレストアベース。小さなバイクだから二人で降ろせた。


「で?いくらで売りたいんや?」

「1000円でどうよ?」


「ん~1000円なぁ…まぁ暇潰しにはエエか…」


新車で10万円ほど出せば買えるキットバイク。故障個所によれば直すより買い替える方が安い。


学校帰りに速人が店にやって来た。今日も理恵と一緒。

仲良しなんだからそのまま付き合ってしまえば良いと思う。


「…ウチで中華モンキーを触る事になるとは思わんかった」

「錆び錆びですねぇ…古いんですか?」

「おっちゃん、怒ってるん?」


目の前にあるのはキットバイク。通称『中華モンキー』と呼ばれるホンダモンキーのコピーバイクだ。


「速人、これはいくらの価値が在ると思う?」

「オクで5000円くらいですか?」


「これな、回収業者が拾ってきた不動・書類付きで1000円」

「プラモデルより安いですねぇ」


とは言え高いとも安いとも言えない値段だ。修理するのにどれほど手間がかかるか分からない。


「腐るほどモンキーの部品が有るんやったら遊びで買うのも良いかもな」

「キットバイクの研究に買ったんですか?」


「そうや」


研究用だから多少は仕方ないと思うけど、これはゴミやと思う。錆だらけで何だか佇まいがおかしい。

正しくエンジンを組んだ時や古いながらも小まめなメンテナンスで調子の良いバイクは置いてあるだけで独特なシャキッとした感じがするのだが、このキットバイクにはそれが無い。


何となくブレーキペダルが前下がりな気がするし、キャリアも後ろ下がり。そして錆だらけ。ゴムの部品には亀裂多数。オイル漏れに燃料漏れ…ジャンクってやつだ。


「まぁ分解して研究用やな。直してどうこうするもんじゃない」

「で、何でおっちゃんは怒ってるん?」


仮にホンダモンキーを新車で買えなくても、中古車を買って直す連中が居ればメーカーから純正部品は出続ける。需要が続けば部品の生産も継続される筈だ。だが、品質はともかく新品が10万円を切る価格ならレストアベースを買ってそこそこ綺麗にして乗るより安い。で、品質はともかく乗ってみたいだけの連中はそちらを買う。そうなると修理部品は買う者が減る。需要が無ければメーカーも供給を終了する。そうなると直そうにも直せなくなる。


「…そんな訳でキットバイクは本来のユーザーの首を絞めてるとおっちゃんは思う訳や」

「う~ん、よく分からんけどそう言う事なんかなぁ」


「で、おじさんはこのバイクを分解してからどうするんですか?」


速人は時折鋭い質問をしてくる。実は分解した後で『ふ~ん』と言ってから捨てようかと思っている。この手のキットバイクは直す価値が無い。俺はそう思っている。


「速人、要るか?」

「貰っても置く所は有りませんよ」


それもそうだ。普通の高校生が2台もバイクを持つのは贅沢だ。置き場も無い。


「じゃあ分解してゴミやな…」

「え~捨てるん?何かに使えんの?」


何に使うんやこんなもん。手間かけるだけで大損だと思う。

少し意地は悪いけど理恵に振ってみよう。若い者の意見を聞いてみようかのう…


「理恵はこれを貰ったらどうする?」

「ほへ?私は修理はようせんから…う~ん…3輪?」

「トライク?」


理恵が出した答えはトライク。俺はトライク…特にミニカー登録した物が好きじゃない。

ヘルメットの装着義務が無いからとノーヘルで事故したらと思うと身の毛がよだつ。


「トライクなぁ…おっちゃんはトライクは好きじゃないな」

「何で?おっちゃん、この前3輪車を直してなかったっけ?」


「ん?あれか?」


理恵はジャイロXの事を言っているのだが、あれはトライクでは無い。単なる原動機付自転車1種だ。つまり変な形をした原付スクーター。特定二輪車とか言って、車体の一部を傾ける事が出来るからオートバイに含まれるらしい。


「そうなんや」

「…ということでアレは原付50㏄、トライクとは違う…多分」

「多分ですか?」


まぁそこらへんは微妙な所だ。お役所仕事は常に後手後手に回る物だ。法整備が追い付いていない。


「モンキー風のトライクは有るけどな、車体をこう…傾ける事が出来んからな」

「3輪車やったらコケへんやん。楽ちんやん♪おっちゃん…乗ってみたいなぁ♡」


「逆にコケ易いんや。車体を傾けられんから遠心力に抗えずコテンや」

「それでジャイロとかトリシティはトライクじゃないんですね」


甘い。理恵の考えは甘過ぎだ。俺とリツコさんの関係より甘い。


「そうやな…それと、2人が乗るには時間が必要やな…2年くらい」

「「2年?」」


2人は大事な事を忘れている。免許を取った時に教わったのを忘れたな。


「ミニカーに乗るのは普通自動車運転免許が要る。忘れたか?」

「あ、そっか」


結局、中華モンキー…キットバイクはしばらく店内に置いとくことになった。

気が向いたら分解して研究してみようと思う。



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