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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年5月
28/73

澄香・近所付き合いをする

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係が有りません。

実家から離れて独り暮らしを始めた澄香。初めて暮らす土地、慣れない家事も何とかこなして少しずつだが友人も出来た。とは言え炊事・洗濯・掃除と休日は家事で潰れる。勉強もしなければいけないので遊んでいる時間は殆ど無い。幸いな事に実家からは充分な仕送りが有る。バイトをする必要が無いのだけはありがたい。継母にとって自分は邪魔者。家から排除するために仕送りを惜しまないのだろう。とは言え無駄使いは出来ない。バイクの維持費はお小遣いの範囲で出さなければ食費に影響する。


「今日はお隣さんと会えるかな…」


そんな澄香の心の潤いの1つはお隣の青年との会話だ。さわやかな笑顔と男性と思えない澄んだ声は少し会話をするだけで澄香の疲れを吹き飛ばした。特にゴミ出しの日は出会う事が多い。顔を合わせるたびに澄香の心は隣に住む青年に惹かれていった。


そんなある休日。ピンポンと澄香の部屋の呼び鈴が鳴った。


「はあ~い」


住所を教えるほど親しい友人のいない澄香はスコープを除いた。


(あ、お隣さん…回覧板かな?)

「こんにちは」

「あ、はい」


ドアを開けると小さなカゴを持ったお隣さんの姿が有った。


「あの、作り過ぎたんだけど、良かったらどうかなって?」


小さなカゴの中にはクッキーが入っていた。作ったと言うからには手作りなのだろう。


「美味しいよ。食べてみてね」

彼の後からぴょこんと顔を出したのはガッツリメイクをした派手な女性だ。


「あれ?保健室の先生?」

「あら?私の事を知ってるの?もしかして高嶋高校の生徒?」

「お隣さんはバイク通学してるんだよ。おじさんの所のお客さんじゃない?」


(彼女さんが居たんだ…)

澄香はガッカリしつつクッキーを受け取った。


「晶ちゃんはお料理が上手なのよ」

「これから紅茶を淹れようかと思うんだけど、一緒にどう?」


恋人同士が過ごす部屋に邪魔する気になれない澄香だったが、女性に手を引かれてお隣さんの部屋へお邪魔することになった。ちゃぶ台が置かれた質素な和屋には彼女の趣味だろうか、ファンシーなカーテンがかかっていた。


(彼女さんの趣味なんだ…)


「ちょっと待っててね、リツコちゃんは…座ってて」

「私だって紅茶位なら大丈夫よ」


「美味しく淹れるんだから邪魔しないで」

「ぶ~」


(えっと、あ、保健室の磯部先生…のお姉さんの方か)


高嶋高校には2人の磯部先生が居る。姉が生徒指導で妹は保健室(と澄香は思っています)

『リツコちゃん』『晶ちゃん』と呼び合うほどだから仲が良いのは間違いない。


「えっと、隣に住んでるのに自己紹介がまだだったよね?私は葛城。葛城晶です」

「私は…学校で見かけた事は有るかな?磯部です。リツコちゃんって呼んでね」

「あ、真野です。真野澄香です」


「もしかして、あなたツキギのバイクに乗ってる?」

「ツキギ?マフラーの?」


澄香のバイクは車体がツキギ、エンジンはホンダの改造バイクだ。一目惚れして買ったバイクだが

周りに同じバイクに乗っている生徒は居ない。


珍しいメーカーでバイク通学申請が出ていると同僚に言われたリツコはそれを覚えていたのだ。


「そうです。これかなって思って買いました」

「ああ、うちの人が作ったバイクだわ。あなただったの?」

「うわぁ…『うちの人』だって…奥さんみたい」


(あれ?磯部先生と葛城さんは恋人同士じゃないの?男女で友達?)


澄香は勘違いをしているのだが、磯部と葛城は恋人同士では無い。それも無理はない。

今日の葛城は完全に休日モード。服は兄のお下がり。化粧もしていない。


普段から男の間違えられている所に男物の普段着では全く分からないが、葛城は女性である。


「はい、お待たせ」


紅茶を持って来た葛城はファンシーなエプロンを身に纏っている。


(あ、この人はオネエなんだ。うん、だから女の人と友達になれるんだ)


実際にお姉さんであるのだが、悲しいかな今の葛城は澄香でなくても可愛いエプロンをした

イケメンとしか見えないだろう。


葛城の淹れた紅茶はコンビニの物とは桁違いに香りは香しく、味も渋みに中に甘味を感じられる見事なものだった。高い所からティーカップへ紅茶を注ぐ姿は刑事もののドラマの様だった。


(格好良いのにオネエなんや。もったいないわぁ)

「お二人はお友達ですか?付き合ってるとかじゃないですよね?」


「「無い無い」」

2人とも手をパタパタと振って否定する様子からすると恋人同士ではないらしい。


「だって、私は好きな人と住んでるもん」

「私の恋愛対象は男の人だからそれは無いよ」


(やっぱりゲイの人なんや…イケメンやのに勿体ないわぁ)


ライダー女子3人でのささやかなお茶会。会話は自然とバイクの事になった。


「え?白バイ隊員さんなんですか?」

「そうよ、晶ちゃんは…えっとCB1300だっけ?大きいよね~」

「CB1300P()ね。リツコちゃんだってゼファー1100乗ってるじゃない。動かしてるの?」


女性で大型自動二輪を乗り回すのは最近では珍しくない。

とは言え澄香の周りには大型バイクに乗る者は少ない。


「学校には乗って来たはるんですか?」

「うん、遅刻しそうなときは乗ってる」

「スピード違反したらリツコちゃんも停めなきゃね」


(噂のイケメン隊員さんはこの人なんや…)

「葛城さんって『高嶋署の白き鷹』ですよね?イケメン白バイ隊員って評判ですよ」


喜ぶと思って笑顔で話した澄香だったが、葛城の反応は違った。


「イケメンじゃ無いもん…クスン…違うもん…ふぇぇぇぇん…」

「よしよし、イケメンなんかじゃ無いもんね~女の子だもんね~」

「!」


思わぬ葛城の反応に驚いた澄香だったが、それよりも磯部の言葉に耳を疑った。


「女の子…えっと、心が?」

「全部女の子だもん!」

「うんうん、晶ちゃんは女の子。うん、泣かない泣かない」


     ◆     ◆     ◆


泣きだした晶ちゃんを2人でなだめること数分。何とか落ち着いて話が出来るようになった。男の子と間違えられたのはお兄さんのお下がりの服を着ていたから…と言う事にしてある。


「良く間違えられるけど私は女性です…これって言わなきゃ駄目?」

「「駄目」」


私も初めて会った時は男の子だと思ってたし、告白もしたから偉そうに言えないけど晶ちゃんはイケメンだ。女にしておくのは勿体ない位のイケメンだ。できればスーツを着て欲しい位だ。


「そう言うのは初対面の時に言うて貰えなわからへん」


混乱していた澄香ちゃんだったけど、晶ちゃんのオッパイを触らせたら納得してくれた。多感な高校生には強すぎる衝撃だったのかな?凄く複雑な表情をしてた。


「晶ちゃん、あなたは男の子と間違えられやすいから気を付けてね」

「うん」


  ◆


「なるほどなぁ、そんな事が有ったんや。はい、お茶」

「ありがとう」


洗濯機を回している間クッキーをつまんでお喋り。今日あった出来事を話す。

今日は休肝日。先日の一件で思う所の在った私は週に1日だけお酒を呑まない日を作ることにした。


「中さんは何をしてたの?バイク弄り?」

「ん~今日はバイクは御休み。冷凍食品作りと掃除洗濯。あとは布団干し」


家事を全部任せてしまった。


「パジャマも替えたし、今日はぐっすり寝れるで」


枕カバーも交換してあった。フカフカの布団に新しいシーツと枕カバー。


「明日に備えて寝るで。おやすみ」

「あ、この枕は…」


新婚さんが出て来るあの番組の枕だ。






NOだった。



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