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大島サイクル営業中・2018年度  作者: 京丁椎
2018年5月
27/73

理恵・ホーンを換えたい

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切関係が有りません。

2年生になっても理恵の愛車であるホンダゴリラは絶好調。国道161号線をストレス無く走り、燃費は約50㎞/ℓと財布に優しい。そんな愛車だが全く不満に思わない訳ではない。


「なぁ速人、ホーンの音って何とかならへんのかなぁ?」

「めったに鳴らさないでしょ?」


物騒な昨今、変にホーンを鳴らすとトラブルに繋がる。特に今都町は要注意地帯。間違って鳴らしたホーンが原因で高嶋高校の生徒が今都町の住人に暴力を受けたり殺されそうになる事件が数件起きている。


そんな訳で、高嶋高校へ通う者はホーンは滅多に鳴らさない。とはいえ全く鳴らさない訳ではない。国道161号線で別れる時は軽く鳴らして挨拶に使ったりする。そんな時に理恵のゴリラのホーンからは何だか愉快な音が出る。速人もそれは分かっていた。


「でも、何かカッコ悪い音がする…」


手を後ろに組んで小石を蹴る理恵。口を尖らせて明らかに不機嫌な様子だ。


(〇子みたいだね)

速人はある悲しいアニメーション映画の登場人物の様子を思い出した。

そんな様子は可愛らしいと思えない事は無いのだが、何とか力になりたいと思った。


「ウチに来る?おじさんの所に行く?」

「う~ん、今はおっちゃんの店って忙しいと思うんや~」


バイクに乗り始めた1年生が最初のオイル交換に訪れる時期。店の一角を借りるのは悪い。


(それに、速人と話しも出来んやろうしなぁ)


店に行ったら速人は間違いなく手伝いをする事になるだろう。幸いな事に今日は課題が無い。2人で他愛のない話をしながらゴリラを見て貰うのも悪くないと判断した。


「じゃあ僕の家ね。ホーン位なら見れるから」

「うん、じゃあ速人の家ね」


ポヘポヘと長閑な排気音を響かせて、理恵と速人の仲良しコンビは湖周道路を走る。


(確かに理恵ちゃんのゴリラのホーンは間抜けな音がする…)


理恵が別れ際の挨拶代わりに鳴らすゴリラのホ-ンの音は『ぽへ』だ。


(似合ってる気がするけどなぁ…)


そんな事を考えているうちに速人の家に着いた。


「ただいまっ…と、じゃあ見よっか?」

「うん、速人で直せるかなぁ?おっちゃんがやっても直らんのやけど」


キーをONにしてホーンを鳴らすと『ぽへっ』と間の抜けた音が鳴る。


「裏の調整ネジを触ってみようか?」

「それで直るかなぁ?私はよう触らんわ。速人は器用やねぇ」


そんな器用なはずの速人がホーンを調整したのだが…


ぽへっ…ぽへっ…ぽふ?…パフ…ぽへ~?…ぽへっ♪


音が高くなったり低くなったり。どうしてだろう?楽しそうに鳴ったり不思議そうに鳴ったり。


「な?直らへんやろ?不思議やなぁ」

「訳が分からん…ホーンを換えてみよっか?」


「それはおっちゃんもやったんやけどなぁ…」


ぽへっ!


速人はジャンク品や処分品を小まめにチェックして中古部品を揃えている。

ノーマルのホーンはジャンクを2~3回買うと何個か入手できるものだ。


「これは大丈夫な奴だから直るはず」

実際に自分のモンキーに付けて確認した部品を自信満々で取り付ける速人だったのだが…


ぽへっ!


「……な?」

「うん、どうなってるんやろう?何これ呪い?」


保管中に壊れたのかと思った速人は自分のモンキーにホーンを付け替えた。


ピッ…ピッ…ピーッ


「ホーンは壊れてないんやなぁ…じゃあ何やろ?」

「分からん…配線かなぁ?内部抵抗とかショートとか?もしかしてスイッチ?」


「配線やったらどこで調べるん?」

「ヘッドライトの中なんやけど…」


ヘッドライトの中には配線と言う名の樹海が広がっている。正直なところ、自身の手でモンキーを組み立てた速人も触りたくない場所だ。分解してしまうと元通りにするのに時間が掛かり過ぎる。


「鳴るのは間違いないからスイッチは正常。音量も出てるから配線もOK」

「じゃあ、何がおかしいの?呪い?」


呪い等といえば単純な理恵は納得するかもしれないが怖がってしまうだろう。

壊れているわけではない。保安基準とか難しい事で違反でもない。周りに迷惑もかけていない。

上手い言い訳は無いか?色々と考えた速人は一つの答えを出した。


「個性…だね」


それからしばらくして大島が暇になった頃、2人は店を訪れて何とかホーンの音を普通にしようと試みた。


ぽへっぽへっ…ぽへっ


「おっちゃん、これ何とかならんの?」

「これな、組む時に何回やってもこの音でな…何をやっても変わらんのや」


ぽへっ


不思議な事にゴリラのホーンは組み立てた時点からこの音だったらしい。大島から配線を新品にしてもスイッチを換えても音が変わらなかったと言われた。試しに配線をテスターで測っても何処にも異常は無かった。


「な?」

「そうですね」


ぽへっ


結局直る事は無かった。理恵は速人が言った通り、これも個性だと諦めた。


「琵琶湖の西側だけに『こせいてき』ってな」

「おっちゃん、寒い…」


この後、ゴリラのホーンはずっと『ぽへっ?』と鳴り続けるのだった。




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