1年生3人組
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
引き起こしから始まった麗・瑞樹・四葉の教習は順調に進んでいた。
3人とも素直な性格もあって、教官の指導の下で着々と実技・学科の教習を進めていた。
そんな3人のうち、瑞樹と四葉を悩ませているのが教習所の貸し出しヘルメット。
色々な匂いが浸み込んだヘルメットが臭くてたまらない。
「おじさんの店に行ってみる?」
「安くで安全なヘルメットが有るかもしれんしな」
「とにかく臭くないやつ!臭いのは嫌っ!」
教習の帰りに1年生3人組は大島サイクルへ寄る事にした。
「あの…型遅れのヘルメットなんて無いですよね?」
必要な物とはいえ、ヘルメットもピンからキリまである。
良い物だと3~4万円。高校生には少し辛い金額だ。
「在庫は有るけど、可愛いらしゅうは無いで」
「可愛らし無うても良いです。臭くなかったらええです」
「教習と通学に使えてガボッてならないのは有りますか」
「ガボッってならん奴?ジェットヘルの事かな?」
そんな事を言いながら大島が店の奥から取り出して来たのはジェットヘル。
少し古い型だがSHOEIの製品。白バイのヘルメットに似ている。
「これやったら新品で税込み1万円」
型遅れで在庫処分されていたのを仕入れておいたヘルメット。
決してスタイリッシュとは言えないが安全性に関しては悪くない。
「貸し出しヘルメットと似てる…これで良いかな?」
「安うて新品やったらええわ。それちょーだい」
本当は1万円で売っては利益が殆ど出ない。
だが、大島は商売人である。ぼったくる事はしないが、損する事もしない。
(ヘルメットをウチで買ってくれたらバイクも8割方買ってくれる…)
ヘルメットを買ったがバイクは他で買う客も居ないではない。
だから損をしてまで売ることは無いが、商売の繋がりは出来る。
「うん、格好はともかく臭くない」
「どうや?似合う?」
「白バイみた~い」
キャッキャッとはしゃぐ2人から代金を受け取り、教習の進捗具合や世間話などをする。
話を聞きながら用意する中古車を決めるのだ。
「教習は上手い事進んでるか?」
出したコーヒーに3人とも砂糖とミルクたっぷり。理恵もそうだったな。
「実技はスイスイやけど、学科が美味い事取れん時が有る~」
「麗ちゃんはMTだったよね?坂道とかヤバくない?」
「お兄ちゃんに習った通りにやってる」
学科は仕方ない。こればっかりは上手くやり繰りするしかない。
「中古車が有るけど見ていくか?」
「「「見る~」」」
3人とも乗り気だ。お客さんになってくれるかな?
「で、どんな風に…は、通学やな?AT免許やったらスクーターかな?」
「私はスクーターやなぁ。カバンを椅子の下に入れられる奴」
「私もスクーターで、安い2種スク?っていうの?」
「私はマニュアル免許だからクラッチ付きが良いな」
椅子の下に鞄を入れられる…メットインが有るスクーターが良いだろう。
安い2種スクーターは微妙ボアアップのスクーターやな。
麗ちゃんはマニュアルクラッチのバイクを所望らしい。
「スクーターやったらこっちやな…何台かあるで」
「今津さんはお兄ちゃんに言われて1台とって有るで、ほら」
「うん…ん?…これってハーレー?にしては小っちゃい?何これ?」
「マグナ50…昔あった原付アメリカンや。面白いやろ?」
「乗ってみて良いですか?」
「嫌やったらお兄ちゃんに相談し」
「はい」
今津さんがマグナを見ている間に瑞樹ちゃんと四葉ちゃんに説明だ。
「これはトゥディをボアアップしたんや」
「ボアアップ?」
「排気量を大きくして原付2種に改造したんや。80㏄…速いで」
「丸いライトが可愛いですね」
「おっちゃん、こっちのは?」
「それは古いスクーターをおっちゃんが弄った奴。それも2種登録」
「何cc?」
「52㏄」
「ふ~ん、良く分からんけど四葉ちゃんの見てるのより小さいんや」
「規制前の2ストやから速い。オイル補充が面倒やけどな」
中古車を見て貰っていたら電車の時間が近付いてきた。
「電車が来るので帰ります。コーヒーごちそう様でした」
「おじさん、また来ますね」
「ほな、さいなら」
帰って行った…やれやれ、3人集まると賑やかだったな。
女3つで姦しいとは上手い事漢字にしたものだ。作った人は天才やな。
2人が興味を持ったトゥデイ改とDio改は取り置きしておこう。
◆ ◆ ◆ ◆
「ただ~いまっと」
玄関の棚にヘルメットを置いた瑞樹に父が声をかけて来た。
「瑞樹、えらいゴッツイヘルメット買うたな…」
「これやったら文句ないやろ?バイク屋のおっちゃんのお勧めやで」
白バイ隊みたいなヘルメットを見て父は驚いているが、そんなのはどうでも良い。
初めてのヘルメットは臭くない。明日からの教習が快適になるのが嬉しい。
「どこのバイク屋や?女の子にこんなゴッツイヘルメット売りつけて…」
「大島サイクルや。1万円でショーヘイ?良いメーカーやで」
「大島サイクル?どこのバイク屋や?」
「藤樹商店街。知ってるん?」
「そんな店は有ったかな…」
父が知ろうが知るまいが関係ない。瑞樹は臭いヘルメットから解放されるのが嬉しいのだった。
一方、四葉はと言えば
「お母さん、ヘルメット買ってきた」
「えらいゴッツイヘルメットやなぁ、いくらしたんや?」
「1万円。余った分のお金はバイク代にしても良い?」
「安かったんやね。じゃあ、その分バイクに回しなさい」
「バイクも見て来た。可愛いのが有ったんやけど…」
「免許が取れたら一緒にバイク屋さんに見に行こうか?」
「うん」
「お母さんも高校の頃は乗ってたのよ」
「え!」
思わぬ母の過去を知り驚く四葉だった。




