5-21 アンゲル エレノア ヘイゼル フランシス
ヘイゼルとエレノアが劇場に入ろうとしたが、ヘイゼルはとつぜんふり返り、
「そこのエンジェル氏も入りますかな?」
とにやにやしながら叫んだ。
アンゲルにつけられていることには、とっくの昔に気づいていたのだ。
「お前ほんとに悪魔だな」
物陰から出てきたアンゲルがヘイゼルを睨んだが、となりのエレノアが、不審者を見る目で自分を見ていることに気がついた。
「俺は帰るよ。金ないし。ティッシュファントムに出してもらうのは嫌だしね!」
背を向けて歩き出した。
「ティッシュファントムって言うな!」
という叫び声がうしろから聞こえたが、無視して立ち去ることにした。
金持ちと観劇か。女の子なんてみんなそんなもんだ。どうせ俺は貧乏なカエルだよ……エレノア、本当に嫌な顔をしてたな……気味の悪い奴だと思ってるんだろうな。
アンゲルは一人いじけながら別荘に戻った。
ソファーのある部屋に入ったとたん、フランシスが、すさまじい金切り声で怒鳴りつけてきた。
「どこに行ってたのよ!エブニーザが倒れたわよ!」
「えっ?」
慌ててエブニーザの部屋に行くと、エブニーザはまだ眠っていて、医者が診察しているところだった。たぶん貧血だろうと。
「妙に痩せているね。食事をちゃんと取るべきだな。鉄分があきらかに不足しているよ」
医者は、そう言って帰って行った。
「エブニーザ、きのう、夕食を食べなかったわね。ここに来てから食事してないんじゃない?」
「そういえば」アンゲルも気がついた「こいつが何か食ってるところ、見たことないな」
「えっ?」
フランシスが怪訝な顔でアンゲルを見た。
「寮の食堂は?」
「こいつ、人が苦手だから、食堂には行かないんだよ」
「じゃあどこで食事を」
「それが……見たことないんだよ」
「一度も?」
アンゲルはしばらく記憶をさぐってみるが……ヘイゼルが部屋で何か食っている(人から奪うのも含む)ところばかり浮かび、エブニーザが何か食べているのを見た記憶が、全くないことに気づいた。
「ああ。一度も見たことがない」
しばらく二人とも無言で立ち尽くしていたが、突然フランシスが、
「……明日の予定は決まったわね」
と言い始めた。
「は?」
「エブニーザに食事をさせるの。全員手伝ってもらうわよ」
何かを企んでいるかのようにニヤニヤし始めたフランシスを見て、アンゲルはいやーな予感がした。
今のうちに逃げ帰ったほうがいいかも……。
「今、逃げようと思ったわね?無理よ。ヘイゼルが連れ戻しに来るわよ」
フランシスが断定的な口調で言いながら、横目でアンゲルを睨みつけた。
……どうして心を読むんだよ!?
アンゲルは本気で恐怖を感じた。
エブニーザは何も知らずに眠っている……。




