1-8 アンゲル 男子寮の事務室
「3人部屋!?」
こちらは男子寮の事務。
叫んでいるのはヘイゼルではなく、今到着したばかりのアンゲル・レノウスだ。
「2人部屋って聞いてたんですけど?」
「それが、学生が多くてね、一部屋三人で使ってもらわんと入らないんだよ」
「それなら、僕はもう一つの安い寮に入りたいんですが」アンゲルは入学案内に載っていた、貧しい学生が入る古い寮のことを思い出した「僕は金持ちじゃないので、そちらのほうが合っているかなと。前からそう思ってたんですが、親が承知しなくって」
「あそこはね、両親がいないとか、外国からの移民で余分な財産がないとか、そういう人が入るところだからね。実際、事件も多いんだ。麻薬とか、不法なブランド物の密売とか。生徒同士のケンカも絶えないし」
「僕は管轄区の人間で、イシュハ人じゃないから、立派に外国の移民だと思いますけど」
「しかしね、君のご両親から『正しい生活をさせてください』っていう書簡が来てるんでね、ここに入ってもらわないと困るんだ。実は手続きも済んでいる」
「何だって!?」
アンゲルはそんなことは知らなかったので、驚いて大声を上げた。
なぜそんな余計なことをするんだ!?
「そんなの無視したっていいじゃないですか、実際ここの料金を払うのはきついんですよ。その……アルバイトを探す予定なんです」
アルバイトが見つかるかどうかが問題だな、とアンゲルは思った。頭の中で、自分の持ち金を必死で計算したが、何度数えたところで2カ月も持たない。生活費を送金できるほど親は裕福ではない。学費だけで手いっぱいだろう。
「そういうわけにはいかないんだよね。いちおう学校ってのは保護者の許可があって入るもんだから」
「学校じゃなくて、寮の話をしてるんですよ!!」アンゲルの声が神経質になってきた「生活費の話をしてるんです!」
「とにかく、君はここに入ってもらうから」無愛想な事務員がプリントを差し出した「寮の内部。ここが君の部屋。もう二人入ってるから、せいぜい仲良くするんだね。それと、先に言っとくが……」
事務員がぎょろりとした目でアンゲルを睨んだ。アンゲルは怖くなってきた。
「同じ部屋に、ヘイゼル・シュッティファントがいる。覚悟したまえ」
何かの刑の宣告のような調子で、事務員がそう言った。
アンゲルは、事務員が何を言いたいのかわからなかった。
シュッティファント?……あれ?聞いたことがあるような気がするが……。
「何か問題なんですか、その、シュッ……えーと、何でしたっけ?」
「何だ、知らないのか」事務員が呆れた顔をした「じゃ、今すぐ部屋に行きなさい。私が何を言いたかったかすぐにわかるから」
事務員はそう言うと、奥に引っ込んでしまった。
アンゲルは渡されたプリントを見ながら、ゆっくりと廊下に向かって歩き始めた。
やれやれ。2人部屋に3人か。これはもめそうだな……。




