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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第四章

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4-19 エレノア フランシス 女子寮の部屋

 エレノアが寮に帰ると、フランシスが怖い顔で、目もとをひきつらせて立っていた。

「エブニーザと映画に行ったんですってね。クーに聞いたわよ」

 エレノアは驚いた。

「どうしてクーがそのことを知ってるの?」

「どうして私に教えてくれないの!?」

 フランシスが椅子を投げつけたかと思うと、その場に座り込んで泣き出してしまった。

 エレノアがあわてて駆け寄ると、

「どうして私だけいつも仲間はずれなのよ!」

 とわめきだす。エレノアは謝ったが、どうしてフランシスがこんなに泣くのかがわからなかった。

 必死でなだめながら、今日起きたことをフランシスに説明すると、

「そうでしょうね。ヘイゼルが2時間も黙って座っていられるわけがないのよ。前にも映画館で暴れたことがあったわ」

「えっ?」エレノアは驚く。今日は驚いてばかりだ「ヘイゼルと一緒に行ったことがあるの?」

「一回だけね。映画の内容が気に食わなくて、ずっと大声で悪口を言ってて、周りの客とけんかになったの」

「ほんと?」エレノアは呆れた「そういえば、どうしてクーが映画館に?」

「偶然ヘイゼル達に会ったって言ってたけど、怪しいわ。きっと最初から三人で様子を見てたのよ」

 フランシスがくやしそうな顔をした。


 次の日。

 練習の帰りにエレノアがカフェに向かうと、アンゲルが他の学生(顔色の悪い、エブニーザより暗そうな)と熱心に話しているのが見えた。最近よく見かける。二人ともいつも深刻そうな顔で話をしていて、近寄りがたい。

 何を話しているんだろう……。

 と思いながら、奥のカウンターでコーヒーを受け取る。ウェイターが、エレノアに熱心に話しかけてきた。彼は前からエレノアが気に入っていたが、いつもアンゲルとしゃべっているので話しかけられなかったという。

「あれは彼氏?」

「違うわ。今日は別な人としゃべっているし」

「ああ、毎週長話してるよ、あの二人。馬鹿な男だね、君みたいな綺麗な子をほっといて、あんな暗そうなのと」

 エレノアは一応笑っておいた。それから、ウェイターと当たり障りのない話をし、てきとうに話を切ってカフェを後にした。あまり気の合う相手ではなさそうだ。

 外に出て振り向くと、アンゲルと学生が見えた。話がまだ終わらないようだ。

「エレノア」

 フランシスが遠くから歩いて来て、エレノア前に来るなり、こう言った。

「ちょうどよかったわ。あんたはオーディションに行くのよ」

 不気味なほどさわやかな笑い方で。

「えっ?」

 何の話か、エレノアにはわからなかった。

「フェスティバルの映像と書類を送ったら、一次選考に通っちゃったの。二次選考があるから、行って!冬の休暇が終わった後だから、まだだいぶ先だけどね。それじゃ」

「ちょっと待って!」エレノアは、立ち去ろうとしたフランシスを引きとめた「どういうこと?勝手に出したの?」

「だって、締め切りが迫ってたし、チャンスは利用しないともったいないじゃないの」

「フランシス!」

「怒らないでよ。言っとくけど、今はなんだって競争が激しいんだから。こういう機会があれば、ばんばん挑戦しないとダメなのよ!おわかり?それじゃ」

 まだまだ文句を言いそうなエレノアを置いて、フランシスは早足に去って行った。

 何考えてるのよ!オーディション!?

 怒りと混乱でしばし立ちつくした後、エレノアはまた音楽科に戻ることにした。

 ブースで歌の練習をするためだ。



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