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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第四章

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4-11 エレノア クーと練習

 エレノアは、音楽を専攻する人が全員受けるプレテストのために、歌の伴奏を弾いてくれる人を探したが、どの学生にも断られてしまった。

 本格的にみんなに嫌われてる……。

 そう落ち込んでいるエレノアに、なんと、クーが、

「ピアノなら、ここの学生より上手く弾けるけど?」

 と言いだした。

「余計に大きな話題になって妬まれるわよ。姫君とステージなんて」

 フランシスは、口ではそう言ったが、顔つきは明らかに面白がっているようににやにやしていた。

 結局クーに伴奏を頼むことにして、二人でピアノがある防音室を借りて練習を始めた。

 エレノアはクーのピアノを聞いて驚いた。

 なんだかすごく、感情のこもった演奏をするのね……?

 クーの弾き方は、情熱的で、音色が豊かだった。確かに、下手なピアノ科の学生に頼むよりはよっぽど上手いだろう。

 クーはあいかわらず、曲の合間に、

「アンゲルとはどうなの?」

「いままで一番いい男が多かった国ってどこ?」

「男と寝たことある?」

 などと、とんでもない質問をして、妖しい笑顔をうかべながらエレノアの肩や髪をなでまわし、真っ赤になって慌てるエレノアをからかって楽しんでいるようだった。

 クーは、前から人の肩や髪によく触ってきたが、どんどん、触る場所が、胸の近くや腰など、きわどい場所になってきたため、エレノアはどう止めたものか悩んでいた。

 つまり、練習に全く集中できなかった。

 しばらくして、ブースのドアをノックする音がした。

 ケンタだ。

「ちょっと話があるんだけど」

 と、エレノアを廊下に連れ出したケンタは、心配そうな顔でこんなことを言った。

「アケパリのメディアによると、あの姫君はレズビアンだって話だけど、二人きりで大丈夫なの?」

「えっ?」

 エレノアは驚きで思考が止まってしまったが、すぐに気を取り直して、

「と、友達だから大丈夫よ」

 と返答して中に戻った。

 しかし、クーにあの愛しげな笑顔を向けられ、練習中はまた肩や髪を触られ……疑惑はふくらんでいく。しかし『プライベートなことだし……』と、直接本人にただすことができなかった。

 となりのブースからケンタのすさまじい早弾きギターが聞こえてくると、クーが手を止めて、感心したようにこう言った。

「わあ、ロックね。もしかして天才なんじゃない……だからあなたに惹かれたのかも、天才どうし」

「クー……」

「でも、アンゲルよりはお似合いだと思うけど」

「クー!違うってば!そういうのじゃないの!二人とも友達!」

 エレノアは怒りだし、クーは、

「怒った顔も可愛いのね……」

 エレノアのほおを指で突っついて、さらにからかい始める。

 エレノアは、ますます歌に集中できなくなってしまった……。



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