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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第一章
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1-6 ヘイゼル エブニーザ 男子寮の事務室

「3人だと!?」

 アンゲルがエレノアと列車の旅をしていたころ、アルターの学生寮の事務室で、ヘイゼル・シュッティファントがカウンターに向かって叫んでいた。攻撃的な青い目は見開き、今にも目玉が飛び出しそうだ。

「ここはみんな二人部屋だろう?」

「それが、都合により3人で一部屋使ってもらうことになったんですよ」無愛想な事務員が、何の責任も感じていないように、平然と言い放った「学生が多くてね」

「どういう都合だそれは!」ヘイゼルがカウンターを両手でバン!と叩いた「俺はエブニーザと二人なら戻ってもいいって言ったんだぞ?それが何だ?3人だって?部屋にはベッドルームは2つしかないだろうが!」

「一人はソファーに寝るとか、ご自分でベッドを一つ買うとか。お金はあるでしょう」

「お前は俺をバカにしてんのか!?」

 ヘイゼルの叫び方がどんどんヒステリックに甲高くなっていく。

「ヘイゼル……」後ろでその様子を見ていたエブニーザが、弱々しい態度で割って入ってきた「いいですよ、僕はソファーでも床でも眠れますから。慣れて……」

「ダメだ!お前はもう一生分床で寝ただろうが!」ヘイゼルがエブニーザを怒鳴りつけ、そしてくるりと事務に向き直ってまた怒鳴り始めた「もう一人が到着する前に何とかしろ!さもないと、『3人目』は俺に暴行を加えられて実家に強制送還ってことになるぞ!」

「ヘイゼル!」

 エブニーザが甲高い声で叫んだ。ヘイゼルが振り返ると、本当に、今にも声を上げて泣き出しそうな、涙でうるんだ目でこちらを見ているではないか。

「わかった、わーかった」

 両手を振って出口に向かう。そして振り返り、高慢にカウンターを指さして、

「明日だぞ!明日!明日までに何とかしろ!」

 と怒鳴りつけて、ヘイゼルは廊下に消えて行った。エブニーザはあわてて後を追った。

「どんなやつが来るのかね。見ものだね!いじめてやろうじゃないか!なあエブニーザ」

「きっと何も知らずに、二人部屋に入れると思って来るんですよ。僕らみたいに」

「知らないんなら『もう満杯です』って追い返してもいいんじゃないか?」

「ダメですって!」

 そんな話をしながら廊下を歩く二人を、寮の学生が興味深い目で見ていた。

 ヘイゼル・シュッティファントは、イシュハでは有名な大富豪の跡取り息子で、おしゃべりで、わがままである。学校ではすでに問題児として有名である。学費の総額より、破壊したものの弁償金額のほうがはるかに多い。

 一方、エブニーザは常に何かにおびえてびくびくしていて、しゃべり方が奇妙に丁寧だ。出身地も不明。

 そんな二人がなぜか同じ部屋にやってきた。学生たちはみんな、ヘイゼルが、面倒なことを押しつけるためにわざと、あの弱々しい少年を連れてきたに違いないと思った。



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