3-17 エレノア フランシス クー ランチタイム
エレノアとクーはまた並んで授業を受けた。
エレノアは、ときどきクーが自分の方を見て、愛しげに笑っていることに気づいたが、意味がわからなかったので、知らないふりをした。
昼にはフランシスと合流。フランシスがクーにこんなことを言い始めた。
「エレノアがあの気持ち悪いエブニーザに夢中なのよ」
「ほんと?」
クーが怪訝な顔をした。
「フランシス……」
エレノアはどう話していいのかわからなくなってしまった。しかし、二人に『どうなの!?どうなの!?』としつこく追及されて、正直に、
「気になる」
と答えた。するとクーは同調してこう言った。
「あんなに美しい少年が現れたら、だれだって心を奪われるわ」
しかし、フランシスは全く逆の意見だ。
「気持ち悪い。暗い。目の色が不気味。人間とは思えない。しかも病気」
心の底から不快そうな顔で、そんな言葉を連発した。
「何言ってるの!?」
「フランシス!」
クーとエレノアが揃って抗議したが、フランシスは意見を変える気は全くないらしい。
「ヘイゼルもシュタイナーも、何考えてやがるんだかわかりゃしないわ。あんな弱虫じゃ、いくら頭が良くても、世の中を渡っていけるとは思えないけど。学費を出すだけ無駄じゃないの。どっかの施設にでも入れて、一生ぼーっとさせときゃいいじゃない。あんな青白い顔でびくびくしながらそこら辺をうろうろされたんじゃ、まわりがいい迷惑じゃないの」
「ひどい……」
フランシスの毒舌には慣れたつもりだったエレノアだが、これには参った。
「フランシスって、弱い男が大嫌いなのよね」クーがいたずらっぽい顔で笑った「で?これからどうするの?」
クーがいたずらっぽく尋ねたが、エレノアは、
「どうするって言われても……」
と困るだけだった。
そのうち、フランシスとクーは別な友人(エレノアには縁のなさそうなお金持ち)のうわさ話を始めてしまい、エレノアはぼんやりとそれを聞きながら、エブニーザのことを考えた。でも、すぐに母親に言われた、
『大いに勉強しておいで、そして大成功しなさい。でも、男にはまっちゃだめよ』
という言葉を思い出した。
そうだ、私は音楽の勉強のためにアルターに来たんだっけ。
「歌の練習に行かなきゃ」
そう言って、エレノアは逃げるように寮を出た。
音楽科に向かって歩く。久しぶりに雨が降って、ところどころに水たまりができていた。
ときどき覗きこんでみると、薄暗い水面に自分の顔が映った。
元気ないわね。
エレノアは、水面に移った自分に話しかけた。声には出さずに。
傘の先で水面を突く。波紋が広がり、自分の姿が割れて、揺れ動いた。
水面が元通りに静まると、また傘の先で突き、波紋や、水滴の落ちたあとを見る……。
エレノアはそんなことを繰り返していた。自分の働きかけで動くものが、目に見える形で現れると、面白い。
理論的に、あるいは実用的には何の役に立たない行動でも、気を紛らわすくらいの効果はあるらしい。少なくともエレノアには。




