3-5 アンゲル ヘイゼル エブニーザ 男子寮の部屋
男子寮の部屋。
アンゲルが心理学概論の教科書を読みながら、頭を抱えていた。なぜか数式がたくさん書かれていて、ほとんど理解できないのだ。
なんで今更微分積分なんかやらなきゃいけないんだ!?
アンゲルは数学が苦手なのだ。
しかも、困り果てているところにエブニーザが帰ってきて、いきなり、
「エレノアとはどんな関係なんですか?」
と聞いてきた。数式が頭の中ではじけ飛んだ。
「な、何でそんなことを聞くんだ?」
「ちょっと気になっただけです」
エブニーザは不愉快そうな顔でそう言うと、自分の部屋に入り、そーっと静かにドアを閉めた。
なんで気になるんだ!?エレノアに気があるんじゃないだろうな?
と思ったときヘイゼルが入ってきて、嬉しそうな顔で叫んだ。
「試合が始まるぞ!」
「試合?」
「イシュハ対ノレーシュだ!中継だ!もう始まるぞ!」
ヘイゼルが部屋を飛び出して行ったので、アンゲルもついていった。食堂のテレビの前に、寮のほとんどの学生が集まっていた。
試合が始まると、学生はみな熱狂した。国籍は関係なく、みんな、選手がシュートをするたびに大声を上げて盛り上がっている。ヘイゼルとアンゲルも、夢中になって歓声を上げていた。
エブニーザが遠くからその様子を眺めていた。いつもは食事時になっても下に降りてこないのに、なぜかこの日は降りてきていた。
しかし、歓声が上がったり、ブーイングが起こるたびに痛そうに顔をしかめた。みんなが何に熱狂しているのか、何が楽しいのか、エブニーザには全く理解できなかった。ただ、テレビのまわりに集まっている学生たちを、暗い廊下から見つめていた。
自分だけ別な、暗い闇の世界に住んでいるみたいだ。
エブニーザは、自分が立っている位置と、他の学生たちが集まっている場所の間に、見えない壁を感じていた。彼にしか見えない壁だ。何でできているのかはわからないが、それは確実に彼を、他の人間の世界から隔離していた。
しばらくその場に立ちつくしていたが、エブニーザは、結局中に入っていくことができず、落ち込んだ様子で一人、光に背を向けた。
階段を一人で上がりながら、何かの呪いのような言葉を一人つぶやく。
そうだ、僕は普通の人間じゃないから、みんなの中に入っていけないんだ……。




