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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第三章

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3-4 エブニーザ エレノア 図書館

 エブニーザはやはり、授業中もまわりの声に怯えていた。時々昔の光景がフラッシュバックしたり、あの『彼女』がいたぶられているのが見える。

 どうして『彼女』の周りには、おそろしい人間しかいないんだ?

 叫び出したくなるが、授業中に叫んではいけないことくらいはわかっているので、必死で耐えている。おかげで授業の内容は頭に入って来ない。

 勉強なんて、一人でやったほうが絶対に早いのに。どうして授業に出なきゃいけないんだろう……。

 まわりをほとんど見ないエブニーザでも、何人かの女の子が、自分を奇妙な目で見つめているのは察していた。そのほかにも、『シュッティファントのルームメイトだ』というだけで、じろじろ見たり、こそこそとうわさ話をする生徒がたくさんいた。

 そういう視線が、彼には苦痛でたまらなかった。

 授業が終わると同時に図書室の奥深く、古代の資料室にこもることにした。ただし、もうヘイゼルやエレノア、姫君にばれているので、夕方には誰かに見つかってしまう。

 エブニーザは、いずれやってくる『余計な人たち』の事を考えると憂鬱になった。

 どうしてみんなほっといてくれないんだろう……いっそ、夜中もずっとここで、一人でいられたら幸せなのに……。

 この日はエレノアが様子を見に来た。

「何を読んでいるの?」

 微笑みながらそんなことを言うエレノアに、エブニーザはうんざりしていた。

 どうせ興味ないくせに……。

「古代の黒魔術なんですけど……あっ」

 エブニーザは話の途中で言葉を切って、何かに驚いたような顔でエレノアをじっと見つめ始めた。

 彼にしか見えない映像が、エレノアの後ろをかすめ飛んでいた。

 二人、

 そうだ。

 あの二人……。

 エレノアはその視線にドキドキしながら

「どうしたの?」

 と聞くと、

「アンゲルとはどんな仲なんですか?」

 と逆に質問された。

 なぜ突然アンゲルなんだろう……?

「ここに来るときに同じ列車に乗ったの。ただの友達よ」

「ただの友達……?」エブニーザは何かを疑っているような顔をした「いつも一緒にいるのに?」

「いつ私がアンゲルと一緒にいるのを見たの?」

 エブニーザは混乱しているように視線をいろいろな方向に動かした。まるで、別な映像を追いかけているみたいに。

「何か誤解しているみたいね。それより、ヘイゼルが怒鳴りこんでこないうちに帰らない?」

「僕はもう少しこれを読んでから帰ります」

 エブニーザが手元の本をかざして見せた。

 エレノアは向かいの椅子に座り、自分が歌手で、フェスティバルで歌うことと、フランシスから聞いたヘイゼルの話(フェスティバル歌手のマイクを奪って自分が歌い始めた話)をした。

「いかにもヘイゼルがやりそうなことですね」

 エブニーザはそう言いながら手元の本をめくった。

「当日、邪魔しないように、黒魔術でもかけておきます?ここにいいのが書いてある」

 エブニーザがエレノアにページを見せるが、どこの言葉だかわからない奇妙な文字が並んでいる。

 エブニーザによると、1000年以上前に使われていた文字だそうだ。

「一日だけ、乱暴な人を静かにできるんですよ」

「あなた、そんなの本当に信じているの?」

 エレノアが笑うとエブニーザは不満げな顔で、

「やってみればわかりますよ」

 と小声でつぶやいた。



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