3-1 エレノア フランシス
エブニーザに『追いかける人を間違ってます!』と叫ばれたあの次の日。
エレノアは、母が送ってきた荷物の中から小さなミシンを取り出した。ステージ衣装や帽子を作るために、何年も前に買ってもらったものだ。
余っていた布をてきとうにつなぎ合わせ、パターンも見ずにトートバッグを作った。昨日エブニーザに言われたことが頭に引っ掛かっていて、何か作らないと落ちつかない気分だったのだ。
間違ってるってどういうこと?そんなに私が嫌なの?それとも特に意味はないの?
そんなことは、いくら考えたところで時間の無駄だと、エレノアにも分かっていたのだが、どうしても、エブニーザのあの声と、その直前の寂しそうな表情が、エレノアの頭から離れなかった。
アンゲルとヘイゼルが、サッカーをしていた。
エブニーザはそれを遠くから見ていた。
仲間はずれになったのかしら……?
考え事をし、時々縫い目が曲がったりしたが、それでもバッグは出来上がった。
フランシスはそんなエレノアを、政治学の本を片手に、じっと眺めていた。朝からガガガガガと異様な機械音がするかと思ったら、妙に顔色の険しい女が、あまり見かけない古臭い機械に向かって変なものを作っている……フランシスにとっては物珍しい光景だった。
「どう?恰好は良くないけど、楽譜は入るのよ?」
エレノアが機嫌よさそうにバッグを見せると、フランシスは見下したような顔をして、機嫌が悪そうに部屋に戻った……が、すぐに出て来て、
「あんたは何でもできるのね。私は何もできないわ」
とつぶやいた。
「デザインをやっているんじゃなかったの?」
「趣味よ。そんなに上手くないし、最後の仕上げは人にやらせてる」フランシスは鏡に向かい、髪をかき上げた「ま、そんなことはいいわ。クーが図書館に来てるはずだから紹介するわ」
「クー?」
「クウェンティーナ・フィスカ・エルノ」
フランシスは、得意げに、一つ一つの名前を切って、ノレーシュ風に発音した。
「フィスカ・エルノ……ノレーシュの姫君ね!」
エレノアが興奮気味に叫んだ。
「そうよ」フランシスが偉そうな顔でにやけた「待たせちゃいけないから。早く行きましょ」
本物の姫君に会える!!
二人はうきうきと、軽い足取りで部屋を出た。




