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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第十四章 管轄区、封鎖

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14-11 アンゲル 宗教の本を読んでみる

 アンゲルは、気を取り直して図書館で勉強していた。タフサから出された宿題で、『いろいろな国の宗教について理解しておくように』というものだ。精神科医のところには、いろいろな宗教の患者がやってくるので、世界にどんな宗教があるか、詳しく知っておく必要があるから、と。

 アニタ教の本、アニタの恋人であるアケパリの武神フレイグに関するもの、キュプラ・ド・エラの両性具有の神カーリーのもの、四人の神を信奉するノレーシュの神話……。

 そして、

 それらの本の山から、ちょっと離れたところにぽつんと置かれている黒い表紙。

 アンゲルは、アニタ教の本を読みながらも、そちらをちらちらと、不愉快そうな目で見ていた。

 ……まさか今更、読み直すことになるとは。

 気が進まないのだが、これから受け持つかもしれない患者の中に『教会っ子』がいないとも限らないし、いちいち『俺は女神なんて信じてません』なんて、相手の宗教を否定するわけにはいかない。それはアンゲルもわかってはいるのだが……。

 ……さんざん読まされたんだけどなあ、学校で。

 視界の隅に、エブニーザらしき人影が見えたが、ちらりとこちらを見たかと思うと、嫌そうな顔で去って行ってしまった。

「何をしてる」

 目の前から声がしたので顔を上げると、そこには、管轄区コミュニティーの黒服の少年が立っていた。

「異教の本なんか読んでどうするつもりだ」

「あのさあ、ここはイシュハなんだぞ。いろんな国から学生が集まってるんだから、相互理解ってのが必要だろ!?」

「相互理解なら、我々の女神を彼らに紹介しろ」

 絶対嫌われるってそれ。理解どころか戦争の原因だぞ?

 とアンゲルは思ったのだが、けんかをするには相手が悪いと思ったので、立ち上がってその場を去ることにした。

 本くらい勝手に読ませろよ。

 アンゲルは貸出カウンターまで大量の本を持っていき『こんなに一気に読めるのか?』というカウンター係の言葉を無視して、寮に向かった。

 部屋に戻り、本の山をどさっとテーブルに置き、床に落ちた黒い表紙の本を拾い上げ、しばし逡巡したのち、ソファーに座り、ゆっくりとページを開いた。




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