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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第十三章 シュタイナー邸にて

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13-11 エレノア フランシス ヘイゼル エブニーザ 宝石の部屋

 エレノアとフランシスは、娘たちとアクセサリーコレクションを見て盛り上がっていた。どれも豪華で、大ぶりの宝石がはまっていて、しかも、本物なのだ!メッキや真鍮のおもちゃはここには一つもない。すべて、地金はプラチナ、金、銀で、宝石も本物だった。

「お父様は、宝石を扱う会社を持っていらっしゃるから」

「シュタイナー・メルケリね。そういえば、メルケリ氏はどこへ行ったのかしら?めったに人前に出てこないそうだけど」

「旅に出ているそうよ。旅行が趣味で、仕事はほとんどお父様に任せていらっしゃるの」

 娘の一人がそう答えたが、フランシスはエレノアを自分の近くに引き寄せ、

「本当は、消されたのよ。間違いないわよ」

 と、耳元でささやいた。エレノアは苦笑いした。

「ところでフランシス。ヘイゼルとは上手くいってるの?」

「結婚式はいつなの?」

 小さい娘たちがそう言い出した。全員が好奇心いっぱいの目でフランシスを見た。

「悪いけど、お嬢様がたのご期待には応えられそうにないわ。あいつがどんなに性格が悪いかよ~くご存知でしょう?」

「呼んだかな?」

 ヘイゼルがジュエリールームに現れた。娘たちが笑い出した。

「ちょっと!ここは女の子しか入れないはずよ!」

「何を言っているのかな?宝石が好きなのはお嬢様だけではないのだぞ。それに」

 ヘイゼルは、一番高価そうな、大きなダイヤモンドが入ったネックレスを手に取って頭上にかざした。品定めでもしているみたいに。

「ここにある宝石は、みんな、シュタイナー爺さんの所有ではないかな?」

「余計なことを言わないで頂戴」

 フランシスは、ヘイゼルからネックレスをひったっくって、自分でつけようとしたが、金具がうまくはまらず手こずっているようだった。エレノアが近づいて助けようとしたが、ヘイゼルがそれを押しのけて、金具をつけてあげた。

「やっぱり、ほんとは仲がいいのよね」

 娘の一人がエレノアに近づいてきてささやいた。酒のにおいがした。

みんなが話している(いや、『フランシスとヘイゼルが言い合うのを楽しんで聞いていた』というべきか)間、エブニーザは、シュタイナーの娘のうちの数人が、熱心に自分を見つめていることに気がついた。怖いのであえて目を合わさないようにした。

 しかし、一番小さい子の未来……エブニーザに熱心に求愛している……が見えて、ぞっとして目をそらした。

シュタイナーがフランシスに気をとられているすきに、こっそりジュエリールームから逃げ出した。しかし、問題の小さい子、フローライト嬢が追いかけてきた。

「知らない人を追いかけちゃだめです!」

 と言うと、小っちゃいお嬢様は、

「私あなたを知っているもの」

 と答えた、エブニーザはますます恐ろしくなり、全力疾走で部屋まで逃げた。

 やっと一人になれた……。

 ため息をつきながら床にへたり込んだ。しかし、すぐに、

 彼女はどこにいるんだろう……?

 寂しそうな顔をして考え込んだ。最近『彼女』の姿が見えないのだ。

 まさか亡くなったんじゃ……。

 エブニーザは目を閉じて、今まで見えたものを順番に思いだす。最後に見えた時には、襲われても抵抗で きなくなっていて……窓の外をぼんやりと眺めていて……それから?

 机に突っ伏して、震え始めた。一人で恐怖に耐えた。

 でも、どうしたんだ?大丈夫なのか?生きているのか?これからどうなるんだ?未来は?死ぬまでに彼女に会えるのか?それとも……。


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