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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第十二章 

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248/294

12-29 エレノア フランシス 女子寮の部屋

 次の朝、いや、昼になってようやく起きたエレノアが、ぼんやりした頭とぼさぼさの髪で部屋を出ると、フランシスが古びた表紙の本を静かに読んでいた。こういう姿は、まさに『シグノーのお嬢様』らしく、上品に見える。

 先輩の話をし『いい人だと思ったのに』と言うと、フランシスがこんなことを紙に書いてエレノアに見せた。


『女性の成功モデルがない

→先が見えないから不安になる

→占いや趣味に走る。

あるいは、誰か一人成功した女性を見つけると、そのあとを追ってみんなで同じ方向に暴走する。

・先駆者がいないから、自分で新しいことをやるしかない

→過激なパフォーマンスに走らざるを得なくなる

→なんにもできないバカは、できる人を妬んでいじめに走る』


 フランシス流の『女性学』のテキストらしい。

「あんたがオペラハウスに入って、本当にプロになっちゃったから、妬みが爆発したのよ」

 フランシスはそう説明するが、エレノアはもちろん納得できなかった。

「油断するべきじゃなかったわね。そんなもんよ、世の中」

 不満げなエレノアを尻目に、フランシスは当然のように、

「最初に来た日にも言ったでしょ?甘いこと言ってると騙されるって」

 そんな言葉を吐き捨てると、フランシスは元通り読書を再開した。先日とはうって変って、落ち着いて、 大人びて見えた。

 まるで、

『私はいじめられるのには慣れているのよ、あんたと違って』

 と言っているみたいに。




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