12-29 エレノア フランシス 女子寮の部屋
次の朝、いや、昼になってようやく起きたエレノアが、ぼんやりした頭とぼさぼさの髪で部屋を出ると、フランシスが古びた表紙の本を静かに読んでいた。こういう姿は、まさに『シグノーのお嬢様』らしく、上品に見える。
先輩の話をし『いい人だと思ったのに』と言うと、フランシスがこんなことを紙に書いてエレノアに見せた。
『女性の成功モデルがない
→先が見えないから不安になる
→占いや趣味に走る。
あるいは、誰か一人成功した女性を見つけると、そのあとを追ってみんなで同じ方向に暴走する。
・先駆者がいないから、自分で新しいことをやるしかない
→過激なパフォーマンスに走らざるを得なくなる
→なんにもできないバカは、できる人を妬んでいじめに走る』
フランシス流の『女性学』のテキストらしい。
「あんたがオペラハウスに入って、本当にプロになっちゃったから、妬みが爆発したのよ」
フランシスはそう説明するが、エレノアはもちろん納得できなかった。
「油断するべきじゃなかったわね。そんなもんよ、世の中」
不満げなエレノアを尻目に、フランシスは当然のように、
「最初に来た日にも言ったでしょ?甘いこと言ってると騙されるって」
そんな言葉を吐き捨てると、フランシスは元通り読書を再開した。先日とはうって変って、落ち着いて、 大人びて見えた。
まるで、
『私はいじめられるのには慣れているのよ、あんたと違って』
と言っているみたいに。




