12-8 アンゲル ヘイゼル エブニーザ 男子寮の部屋
男子寮。機嫌良く帰って来たエブニーザがアンゲルに『船の話』をすると、
「それはお前の願望じゃないのか?自分が気立てのいい女の子に会いたいんだろ?」
アンゲルがそう言うと、エブニーザはムッとした顔をした。
「だって、女神アニタって……神話だろ?現代にそんなこと起こるか?」
「現代じゃなくて、未来ですよ。僕らの子供の世代です」
「そんな先まで見えるのか?お前の知り合いか?」
「違います」
「そんなの見えて何か役に立つか?」
「機嫌が悪いですな、エンジェル氏」
ソファーで新聞を読んでいたヘイゼルが割って入って来た。
「うるさい、ティッシュファントム」
「ティッシュファントムって言うな!」
「俺の部屋で新聞を読むな!」
「新聞はソファーで読むものだぞ!」
「意味わかんねえよ!!」
また二人でケンカを始めてしまった。
しばらく二人のケンカをじっと見ていたエブニーザが、突然、
「いいかげんにしろ!」
と叫んだ。
アンゲルとヘイゼルは驚いて動きを止めた。
……エブニーザが怒鳴った?
エブニーザは、自分の叫び声に驚いたように震えだし、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
アンゲルが聞いても答えない。30分ほどで震えは治まったが、エブニーザは何も言わずに部屋に戻って寝てしまった。
「なんだろうなあ……」
アンゲルが首をかしげていると、ヘイゼルは興味なさそうに、
「またなんか思い出したんじゃないか?」
とつぶやいて、自分も部屋に戻って行った。
アンゲルは一人ソファーに座って、今日のエレノアのことを思い出していた。エブニーザの話をしてたら突然怒り出したな……何かあったのか?
まあいいや。それより試験が近いからな、勉強しよう……。
電話が鳴った。アンゲルがめんどくさいと思いながら出ると、母親だった。
『大丈夫かい?あれから変わったことはない?』
「ないよ」アンゲルはそっけなく答えた「そっちは?」
そのあとは、あたりさわりのない話をしただけだったが、受話器を置いたとたん。今まで忘れていたこと……イライザ教とか、狙われていることとか、台風とか、悲鳴とか、クラウスとか……を一気に思い出して、アンゲルはソファーに倒れ込んだ。




