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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第十章

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10-13 エレノア フランシス クー 女子寮の部屋

 夕方。

 エレノアは部屋にこもって、ぼんやりと窓辺を見つめていた。

 外は晴れていて、空はすがすがしく、窓からの光も明るい。

 影の中にたたずんでいる自分とは、世界はあまりにも対照的だ。

 エレノアが、いつも以上に人目を避けて部屋に閉じこもってしまったので、フランシスはひたすら困っていた。どうしていいかわからないからだ。

「ねえ、食事しに行かない?あんた昼も食べてないでしょ!?」

 ドアの前で叫んでみるのだが、返事はここ数日、いつも『いらない』だ。

「ちょっと!!いいかげんにしなさいよ!」フランシスがキンキン声で怒鳴り始めた「あんた声楽やってるんでしょ!?飢えたら声なんか出ないじゃないのよ!とっとと出てこいっつの!!」

「……もう歌はだめかも」

 消え入るような声が中から聞こえてくる。

「は?」

「もう歌わないかも」

 エレノアの言葉に、フランシスは心底ぞっとした。

 飛びあがるように電話のところまで走って行き、

「クー!今すぐ来てちょうだい!エレノアが変なのよ!変過ぎるの!」

 凄まじい声で受話器に向かって叫んだ。

 姫君クーは、ものの15分で女子寮に現れた。しかし、

「エレノア!エレノア!出てらっしゃいよ!ドアを開けてよ!」

 姫君でさえ、エレノアの部屋のドアを開けることはできなかった。

「まさか中で死んでるんじゃ……」

 フランシスがつぶやいた。クーは飛びあがって、

「やめてよ!!」

 と、彼女らしくない甲高い声で叫んだ。



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