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アンゲルとエレノア  作者: 水島素良
第九章

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9-23 エレノア フランシス 女子寮の部屋

 エレノアが寮の部屋に入ったとたん、フランシスが抱きついてきた。

「ごめんね!エレノア!よかった!帰ってきたのね!もうこんなことしないから許して!」

 エレノアが、何が何だかわからず黙っていると、フランシスがいまいましそうに叫んだ。

「管轄区の女はやっぱり気違いだわ!」

 要するに、フランシスの予想以上に、ソレアは曲者だったらしい。『敬虔なる女神イライザの信者』であるソレアは、寝る前も起きた後も、食事の前も後も『意味不明な祈りの文句をぶつぶつつぶやいて』フランシスにまで『イライザ教の聖書の説明をして、改宗させようとした』というのだ。

「そこまでするの?すごいわね」

「しかも、布教するのが相手のためになると本気で思いこんでるから怖いのよ。ああ、気持ち悪い!もう二度と教会っ子には関わらないわ。ええ、冗談じゃないわよ。そういえば、気違い女が作ったサンドイッチとスープがあるけど、朝食にする?」

「味は普通?」

「サンドイッチは祈らないし、スープは布教活動しないわよ」フランシスが笑った「ところで、クーの家で何されたの?やっぱり脱がされ……」

「フランシス!」

 エレノアがすさまじい大声で怒鳴った。

 フランシスは両手を前に出しながら、キッチンまで後退した。

 エレノアはそのまま自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

 ああ、どうして、よくわからないことばかり起こるの?

 アンゲルには変な子がついてくるし、

 声が変わってるし……。

 エレノアは、突然あることに気がついて、起き上がった。

 昨日の事件のせいで、自分の声に悩んでいることを、すっかり忘れていた!!

 信じられない。

 クーのせいだわ!!

 エレノアはまたベッドに倒れた。でもわからなかった。

 どうして、アンゲルが女の子に追いかけられていたからって、私が声のことを忘れるほど動揺しなきゃいけないの?

 答えは、わかるような気がした。

 でも、エレノアは、考えるのをやめた。

 わかりたくなかった。

 レッスンの開始時間が、近づいていた。

 でも、疲れていたエレノアは、そのまま眠りこんでしまった。



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