9-17 レストラン
レストランに3人が着いたとき、入口にエブニーザが立っていたので、みな驚いた。
クーは、エブニーザを見たとたん、冷ややかな笑いを浮かべた。
「来るような気がしてたわ」
結局4人で食事することになった。
ケンタはやはり、エブニーザの目の色を不審に思ったようだが、エレノアに小声で、
「本人が気にしてるようだから、目の色については尋ねないほうがいいよね?」
と言った。エレノアは驚いた。しかも、エブニーザが図書館で読んでいる薬草辞典の話を始めた時、
「ああ、俺の実家に生えてるよ、それ」
ケンタが平然とそんなことを言い出した。
「俺のばあちゃんがよく摘んできて、餅に混ぜて食ってた」
「体にいいですからね。イシュハではあまり見かけませんけど……」
エブニーザのオタクめいた話にまで、ちゃんとついていく。これにはクーも驚いていた。
「アンゲルよりこっちのほうがお勧めじゃない?今頃管轄区の子と遊んでるんでしょう?」
クーがエレノアに耳打ちした。
エレノアは暗い顔で立ち上がり『トイレに行く』と、誰にも聞こえないような小さな声で言うと、席を離れた。クーがあわてて追いかけた。
エレノアとクーがいなくなってすぐ、ケンタは、
「姫さんがエレノアに手出ししないか、心配で来たんだろう?」
とエブニーザに言った。エブニーザは、怯えた顔で視線をそらした。
「エレノア好きか?」
「違います。僕じゃありません。僕はただ……」
エブニーザは気まずそうに横を向いていた。
「まあいいや。とりあえず目的は一致した」
「えっ?」
「姫さんには悪いけど、二人でエレノアを守ろう」
そのころ、クーとエレノアはトイレで話をしていた。
「大変ね。もてて。誰が好み?顔はエブニーザの方が明らかに綺麗だけど、あのアケパリ人はそうとうなテクニシャンよね。ギターの。ベッドではどうか知らないけど……」
「クー!!」
エレノアが怒る。
「やだ、怒らないでよ」
「怒るわよ!」エレノアが珍しく大声で怒鳴り始めた「セカンドヴィラで自分が何をしたかわかってる?あれからずっと怖くてたまらなかったんだから!男が同じことをしたら犯罪じゃないの!!訴えてたわよ!!」
「ごめんなさい、お願い、怒らないで!二度としないから……」クーが泣きそうな顔で懇願した「それに、今日は私だって、驚いたんですからね。いきなりフランシスが電話してきたと思ったら、エレノアを泊めろっていうんだから」
「フランシス……」
エレノアは、頭に上った血が急に引いて行くのを感じた。いや、怒りの矛先が、クーからフランシスに移ったと言うべきか。
きっと今頃フランシスは、あのソレアだか何だかと一緒にいるのだろう。
「きっと、何か企んでいるのよ。私とアンゲルをからかって遊ぶ気なんだわ……どうしてあんな性格なのかしら?躁うつ病?親のせい?」
「あら、アンゲルも呼ぶ?あなたに気のある男が勢揃い……」
「クー!!ちょっとは反省してよ!!」
「ごめんなさい、もう言わない」
二人が席に戻ると、ケンタがギターを弾きながら変な歌を、変な抑揚で歌っていた。
『ぼくのママには愛人が三人
奥さんは強くて柔道が黒帯
家事をサボると投げられる
皿を洗うと視界がかすむ
ああ~一生に一度でいいから~
大人しくて優しい子に~出会ってみたい~』
アケパリの芸人の歌を勝手に翻訳したものだ。周りの客が『うちの女房だ!』と叫びながら爆笑していた。エブニーザも楽しそうに笑っていた。
「ほんと、笑ってると天使みたいね」
エレノアはつぶやいた。でも、エブニーザの笑った顔(かなり珍しい)を見たにもかかわらず、最初に出会ったころほど心は騒がなかった。どうしてだろう?




