2-4 エレノア フランシス 女子寮の部屋
「ヘイゼルが?」
帰ってきたフランシスにエレノアが『奇妙な電話』の話をすると、思った通りの嫌そうな反応が帰ってきた。手には『政治学概論』の教科書を持っている。
「今度かかってきたら、何も答えないで切りなさいよ!」
「でも」エレノアが瞬きをしながら言った「私の知り合いが同室なの」
「ヘイゼルと?」
「ええ」
「男?」
「男子寮なんだから男に決まってるわ」
「そうじゃないわよ!彼氏?」
「違うわ。列車が一緒だったの」エレノアはそう答えたが、気になっているのは『列車に乗っていた男』ではない「同じ部屋に三人いるらしいわ。不便そうね」
「ほっときなさいよ。自分で変なのを連れてくるからでしょ?」
「変なの?」
「シュタイナーのところでできた友達らしいけど、頭がおかしいって噂よ」
エレノアはさきほど見た、天使のような顔の少年を思い出した。
「すごくきれいな子だったわ」エレノアは、フランシスが何か知らないかと探りを入れ始めた「頭がおかしいようには見えなかったわよ?」
「管轄区の支配者どのは変わり者なのよ。シグノーの者の話だと、どこかで倒れていた流れ者を引き取ったって話よ。ただの気まぐれじゃない?」
「倒れてた……」
「なによ、気になるの?そんなにきれいな少年だったわけ?」
「そりゃあもう、見せてあげたかったわ。驚くわよ」
顔を赤らめてうれしそうに話すエレノアを、フランシスは胡散臭い顔で睨んだ。
「悪いけど、どんな美少年だろうと見たくないわね。ヘイゼルがくっついてくるんでしょ?」
「ヘイゼル」エレノアが思い出したように言った「最初、私をあなたと間違えてたみたい。『俺は生還した』とか叫んでたわよ。仲がよさそうな口調だったけど」
「あいつが勝手に付きまとって来るのよ!」フランシスが教科書でテーブルをバン!と叩いた「あいつの話はやめて!それが嫌ならいますぐ出て行ってちょうだい!」
「分かったわ、話はやめる」
やっぱりフランシスはヒステリックだ。エレノアは、ヘイゼルが話していた『追い出された34人』のことを思い出した。ああ、やっぱり私もそのうち追い出されるのかしら?でも、ここ以外に女子寮ってないし、アパートを借りると高すぎてお金が足りないし……。
それにしても、シグノーの家がそんなにお金持ちなら、どうして寮に入るんだろう?アパートを借りればいいのに……そういえば、どうしてシュッティファントみたいな大きな家の息子が、3人部屋の寮になんか入ってるんだろう?




